もる・もる・ばえる『あのー。マスター。』
『ごめん。もう少しだからじっとしてて。』
それ、30分前と同じセリフなんだけどなぁ。
でも、マスターがこうやって、自分の手をキレイに磨いてくれているのは、ちょっとうれしいかな。
金属油の匂いには最初びっくりしちゃったけど、だんだん自分の爪がぴかぴかしてきて、キラキラしてるのを見るのは楽しい。
何より、マスターといろんなお話ができるのはものすごくうれしい。
でも、こういうとき、じゃまものがはいるのは、よくあることで。
『ちゃんますー!』
『はぁい、マスター…あれ、リップ、何してんの?』
えっと、清少納言さん、と、鈴鹿御前、さん、だっけ。ぴかぴかになった私の手と、マスターの顔を交互に見て、ほー、ほー、とかにやにやし始めた。
ちょっと、苦手だなぁ。
『ちょっと、機械いじりしてきたんだけど、帰りにリップの両手みたらさ、磨きたくなっちゃって。』
『へぇ。メカメカ、好きなんだ。ちゃんます。んでも、女の子のネイルケアなんて、やるじゃん。』
『そ、そんなんじゃないです。』
『んにゃ。ネイルケアっしょ。リップちんだって女の子なんだし。あれ?鈴鹿っち?どったの?』
『…』
なんか、鈴鹿さんがブツブツ言ってる。
なにかな。悪口かなぁ。
そしたら、鈴鹿さんが私をじーっと見つめて、ほっぺたをつかんで、叫んだ。
『よっしゃ!盛っちゃえ!なぎこちゃんも手伝って!』
『いいよ?でも、何?』
『盛るっていえば、ネイルっしょ!』
盛る?なんだろう。
ごはんじゃないのかな?
『いいねぇいいねぇ。』
『リップ、いいっしょ?かわいくしてあげるからさ!』
かわいい。いいかも。
私はどきどきしながら頷いた。
『でも、マニキュアたんなくない?』
『マスター、ポスカある?ポスカ?金属ならポスカいけるっしょ。 あ、サンキュー。』
ポスカ、とかいうマジックみたいな色とりどりのペンがたくさん。
『お花の写真とか探そっか』
『んじゃ、かおるっちのとこいくべ』
なんか、いろいろあって。
私と清少納言さんと鈴鹿さんは、いっぱいポスカを持って、図書館にいます。(私が二人を手に載せて運んだ。)
紫式部さんがいろんなお花の写真とか、図案のたくさん載ってる本と、鏡を持ってきてくれた。それから、防音の術も周りにかけてくれた。
『やっぱピンクがばえるよね!』
『いやいや、紫もよくない?』
ばえる、はキレイにみえる、だっけ。前にマスターに教えてもらった。