はじまりは卵から「おれに、料理、おしえて、ほしい。ハッシュドポテトのほかに、つくれるやつ、増やしたい。」
壺の中の家の厨房を見たレザーが、旅人である空にこういったのが数日前。いいよ、と彼が言ったので、今、彼とレザーの目の前には、籠に山もりの鳥の卵がある。
「いっぱいもってきたな、レザー。」
後ろから、いつも通りに空の料理を見守るパイモン。
「失敗、心配、だから、多く持って、きた。」
「じゃぁ。一緒に料理、はじめようか。」
コンコンコン。カシャッ。
テーブルに殻を打ち付けて、入ったひびに指をかけて、フライパンの上で、割る。
しかし、慣れない身には、難しい。
「むー・・・。うー・・・また、黄色いの、割れた。」
フライパンの上には黄身の割れた卵が5つ。
「目玉焼きって、難しいよな。 きれいに割れないと特に。大丈夫だぞ。レザー。」
5戦5敗。
「ベネットがやるみたいに、まんまる、できない。」
悩むレザーに対し、やさしく微笑んで、空は菜箸を取り出して、カシャカシャとフライパンの上の卵をかきまぜ、塩と胡椒で味をつけていく。
出来上がったスクランブルエッグをひとさじ、スプーンですくい、空はレザーに渡した。ふうふう、と冷ましてから、レザーは口に入れる。
「・・・うまい。」
ふわふわ。ちゃんとあったかい。味もする。
「目玉焼きで失敗しても、こうやってスクランブルエッグにすれば大丈夫だよ。」
「失敗、してもいい?」
「うん。してもいい。味付けは失敗しちゃうと大変だけど、卵なら、大丈夫だよ。」
「そうか。失敗、いいのか。」
「・・・でも、黒焦げ卵はかんべんだぞー。」
「わかった。やきすぎ、だめ。」
「生焼け卵も大変だぞー。」
「うー・・・」
「弱火にして、ふたをして時間をはかって焼けば大丈夫だよ。しっかりフライパンを見張ってれば、平気だよ。」
「わかった。やる。」
そのまた数日後。毎日出てくる朝の卵料理にもみんなが慣れてきたころ。
「・・・おお!レザー、完璧だ!黄身、割れてないぞ!」
「う!」
ふたをして、弱火にして、横にあった砂時計をひっくり返して、じっくり待つ。
砂時計の砂が落ちきったら、ふたを開ける。
「焦げてない!やったな、レザー!」
「やった。できた。はじめて。」
「よかったね。レザー。」
「うぅ・・・あり、がと。」
おいしい、は、うれしい。
でも、周りのカリカリも、おいしい。
目玉焼き、できて、うれしい。
これは、料理の勉強の、最初のお話。