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    しふりしゃ

    男を犯す

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    しふりしゃ

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    俺×月依氏の敗北確定メンヘラ介護夢小説です

    ##俺×月

    なんだか、妙にうるさい。けたたましく鳴り響く音は枕元のスマホからだ。眠い目を擦り、まだぼやけた視界で画面を見る。深夜だ。アラームはこんなに早い時間に設定していなかったはずなのだけども……。
    ロック画面には大量の着信通知が連なっていた。さぁっと血の気が引く。何か緊急事態でもあったのだろうか。だとしたら、それを無視して呑気に寝転けていたことになってしまう。
    再び着信音が鳴る。今度こそちゃんと取らねばならない。

    「はい、もしもし。あっはい、そうです。月依さんの助手の……えーっと……あー……月依さんが。はい、分かりました。向かいます」

    電話が切られたのを確認してからふぅ、とため息をついた。月依さんが「アレ」だから、すぐに来てくれ、なんて。鬼電してくる暇があったら自分たちで何とかしてほしい。どれだけ月依さんと関わりたくないんだ。とはいえ、これが俺の仕事なのだから向かわねばならない。



    「じゃ、頼んだよ」

    研究所に着くと、俺に電話をしてきていた研究員の一人がそう言い残してはそそくさと去っていった。こんな助手を雇ってまで関わりを絶とうとするだけはある。研究室の鉄製の扉に手をかける。いつもよりもひんやりとしているように感じられた。横に引こうとすると、ガチャ、と突っかかってしまう。案の定鍵がかかっていた。

    「今日は本当にダメな日っぽいな……」

    研究員から渡された合鍵を使って扉を開ける。部屋の中は電気が消され、実験器具のランプから放たれる色味のついたほのかな明かりだけがやけに目立っている。

    「月依さ〜ん」

    一応呼びかけてみる。当然返事はない。電気は付けないまま、ずかずかと研究室の中へ立ち入る。

    「あぁ、そこにいましたか」

    部屋の隅の方で蹲っている人影がうっすらと見えた。散乱している資料や器具を踏まないよう、足元に気をつけながら歩み寄る。
    そこにいるのは長い黒髪の男​​──俺が助手をしている天才科学者の月依冴珀だ。

    彼はかなりの情緒不安定であり、そのせいで時たまこうして酷く沈むことがある。となると、ケアが必要になる。それが俺の仕事だ。要するに、助手とは名ばかりのお世話係みたいなものである。他の研究員が巻き込まれないようにと、研究所側が月依さんには断らずに「助手」を募集したのだとか。

    「薬、持ってきましたよ。飲めそうですか?」

    ……返事がない。代わりに聞こえてくるのは不規則で荒い吐息だけだ。合間に呻き声のような小さく掠れた声が挟まる。俯いているせいで髪がカーテンのように垂れており、表情を窺うことはできない。
    薬を飲ませるために更に近づこうとする。ぴちゃ、と液体を踏んだ音。この闇の中でも黒々として見える、色の濃い液体。鉄臭さが鼻をついた。割れたガラスの破片が月依さんの手元に転がっている。

    「この前の傷も治りきってないのに……」

    月依さんには自傷癖がある。夏でも長袖の服を着ているため他の者は知らないが、少し服を捲ってみればあちこちに傷跡が走っているのが見えるほどだ。手首の自傷……いわゆるリストカット以外にも、あちこちに傷をつけているのである。
    傷の具合を確認しようと懐中電灯を取り出した。視界が明るくなると、あちこちについた血の跡がはっきりと見えるようになる。月依さんの手首からはどくどくと血が流れ出していた。切ったというより「抉った」ような傷だ。
    ライトが当てられたことで、彼はようやく俺を認識したらしい。顔の向きがほんの僅かではあるが上に動く。

    「……ぁ。ち、近づか、ないで、ください」

    ひゅっ、ひゅっ、と過呼吸に似た呼吸音がする。或いは泣いているようにも聞こえた。薄らと見える目は、俺ではないどこか遠くを見ている。果たして、今の彼には俺が何に見えているのだろうか。

    「わ、わたし、は……。やめ、っ、やめて、くださ……」

    幻聴があるのだろうか、必死に耳を塞いでいる。折角少しばかり上がった顔も、胸の方へと深く沈み込んでしまった。この状態ではどうすることもできない。俺は精神科医でもカウンセラーでもないのだから。

    「また様子見に来ますから。薬は置いておくので、飲めそうだったら飲んでくださいね」

    月依さんの足元にペットボトルの水といくつかの錠剤を置いた。ぶつぶつと独り言を続ける彼を他所目に、彼が座り込んでいる位置から手が届きそうなガラス片を片付ける。この部屋にはガラス製のものなどいくらでもあるから、焼け石に水だとは思うけど。

    月依さんの前から立ち去ろうとする。が、何故かズボンの裾を掴まれてしまった。先程は近づくなと言っていたが……かなり思考が破綻しているようだ。

    「まって……ください。おねがいが、あります」

    「はい。なんですか」

    月依さんは何かをもごもごと返した。しゃがみこんでいるせいで、彼の口との距離が遠くて聞き取りづらい。膝を曲げ、彼と目線が合うようにする。髪の隙間から覗く赤い瞳は妙にギラギラと輝いていた。
    次の瞬間、がっ、と手首を掴まれる。

    「ちょ、月依さん……!?」

    相手は肉なんてろくについていない細い腕をしているはずなのに、全く振り解けない。抵抗虚しく、そのまま手を無理やり引っ張られて。
    指先にざらりとした感触。俺は月依さんの首に手をかけるような体勢にされていた。ざらざらとしているもの正体は、首筋に幾重にも刻まれた自傷の痕だ。

    「私の首、絞めてください」

    耳元で囁かれる。子供を諭すような、柔らかな声色。絶対にダメなことなのに、もしかしたら良いことなのではと錯覚しそうになる。悪魔の囁きとはこういうのを言うんだろう。

    「だ、ダメですよ。そんなことできません」

    ぐい、と更に手が引っ張られる。いや、月依さんの首に手を押し付けさせられているのだ。白く細い首に俺の指が沈み込む。指先に感じるどくどくと激しく脈打つ血管の感覚は、月依さんのものだろうか。それとも、俺のものか?
    手首がふっと開放された。が、直ぐに俺の手の甲の上に月依さんの手が重なってくる。俺の手を挟んで、自分の首を絞めるような形だ。意図とは反して俺の手は月依さんの首を絞めつける。

    「っ、このままじゃ死にますよ!?」

    「……それがいいんじゃないですか」

    あまりにも淡々とした回答。目がさらに暗い輝きを放つ。背筋が冷たくなる。この人は、本当に死ぬ気だ。気道を圧迫される苦しみからか、手の下の喉がびくびくと動く。半開きになった口の端から唾液がつぅ、と落ちる。

    「ぐ、っ、……あ、はっ……」

    身体の反応とは違い、彼の表情は恍惚としている。まともな精神状態じゃない。​​──いや、最初からまともでは無かったが。それにしてもここまで酷いのは何ヶ月ぶりだろうか。

    「ちょっ、止めてください! 本当に死にますって!」

    躍起になって制止するが、俺の手ごと自分の首を絞めている月依さんの手は止まらない。......こうなれば、最後の手段だ。ぎち、と彼の首を絞める手に力を込めた。

    「ッ、がっ、は」

    一瞬月依さんの手が緩むが、直ぐに俺の手に同調するように一層強くなる。酸素を求めてはくはくと動く口。虚ろな目は歪んだ笑みを浮かべているが、その目尻からは苦しさ故であろうか、生理的な涙が零れ落ちる。身体と精神がばらばらに反応を示すアンバランスな表情には、不気味な耽美さが宿っていた。

    「ぁ、……っ」

    ふっ、と月依さんの手が緩んだ。意識が落ちたか。彼の首から手を離し、俯いた顔を覗き込む。濁り切った赤い瞳と目が合った。視線だけがぎょろりとこちらに向けられているのだ。気絶した訳ではなさそうだ。むしろ、もっと酷い何かに堕ちたような​​──

    「"くれはさん"じゃない」

    「え?」

    心臓を掴まれるような冷ややかな声が聞こえた。どん、と衝撃が体を襲う。訳も分からぬまま尻もちをついた。突き飛ばされたのか。言動が支離滅裂すぎる。首を絞めさせてきたのはそっちだろうに。
    それに、またその名前だ。彼がまともな判断が出来なくなった時にのみ出てくる、「くれはさん」とやらだ。この人間不信の天才科学者の口から、唯一縋り付くように出てくる他人の名前だ。

    「私を殺していいのは"くれはさん"だけです。貴方は違います。違うんです……ッ、ゲホッーか、はッ」

    いきなり声を荒げたかと思えば、激しく咳き込み始める。気道が開放され、一気に酸素が肺になだれ込んで来たせいだろうか。手を床について背を丸め、四つん這いのような姿勢で苦しんでいる。

    「ゴホッ……っ、う、ぇっ」

    びちゃ、と液体がぶちまけられる音がする。咳き込んだ勢いでそのまま嘔吐したようだ。彼にしては珍しく、胃液だけではなく固体のような物が混じっている。なるほど、ただでさえ良くない精神状態の時に、必要最低限の食事​​──つまりは生命維持の為に食べないとまずいタイミングが重なって、無理に食事をしたようである。道理でいつもより荒れている訳だ。

    月依さんは口の端からぼろぼろと色々な物が混じった液体を溢れさせながら、床に吐き出された自身の吐瀉物を眺めている。

    「あ、ぁ……そんな目で、見ないで、ください。ごめ、ん、なさい……」

    何が見えているのか、吐瀉物で汚れた床に怯えた顔をしながら謝っている。ここまで来るともう俺としてはどうすればいいのか分からない。こちらから手出はできそうもないが、かと言って下手に一人にしたら死んでしまうのではないか。そう思わせるほどに弱々しい姿であった。
    その場に釘付けにされ、ただ彼の変化を眺めていることしか出来ない。ぽたぽたと小刻みに何かが落ちる音がするが、涙か、汗か、はたまた涎か。重苦しい静寂の中に聞き取れない彼の独り言が延々と流れては消えていく。頭が回りすぎるのはこういう時に毒になるのだろう。考えなくてもいいことまで考えが及んでしまうから。

    何分ほど続いていただろうか、突如として独り言が止んだ。先程よりも蒼白い顔をしている。幽霊でももう少しマシな顔色だろうにと思えるほどだ。

    「うっ、ぶ……ぉえ」

    苦しげに口を覆ったかと思えば、再び嘔吐する。いつも通りの胃液だけの吐瀉物だ。吐き戻し終わった途端に、ぴたりと動きが止まった。糸が切れたように月依さんの体がくずおれる。

    「え、ちょっ……!」

    あまりに突然のことに支えることも出来なかった。様々な体液が混じって広がる床に月依さんの身体が落ちる。衝撃で跳ねたものがズボンに着いた気がした。
    倒れ込んだ月依さんは指一本動かない。失神……だとは思うが本当に生きているのか不安になる。口元に手を近づけてみると生ぬるい吐息が感じられた。

    「あー、月依さん……? 運びますよ」

    脇を掴んで持ち上げ、背中側に担いだ。助手になる前は倒れた人を運ぶ方法など分かっていなかったが、月依さんのせいで段々と慣れてきてしまっている。……そんなに倒れないでほしいのだが。彼の身体についていたものが俺の服に染み込んでくるのが気色悪いが、そうも言ってられない。
    部屋に備え付けのシャワー室に横たえるようにして身体を押し込む。便利であるが、いつかこれで首を吊るんじゃないかと気が気でない。上に掛け合って撤去してもらおうか。
    汚れた服を脱がせてビニール袋の中にしまっていく。いつも着ているタートルネックのニットが無くなると、身体中に残る傷痕が顕になる。他の人には薬品火傷の跡があるからと説明しているそうだが、実際のところ自分でつけた傷跡の方が明らかに多い。

    「……すみません」

    いつの間に意識を取り戻していたのか、月依さんが倒れたまま小さく呟いた。焦点の定まらない目から涙が流れている。

    「それ、俺に言ってるんですか?」

    返事はない。また瞼が閉じられていた。

    「謝らなくてもいいですよ」

    こんなことでも耐えられるくらいにあなたが好きなので……とは言わなかった。俺がいくら想ったところで、この人の目に映る人間は「くれはさん」だけであろうから。

    「俺にも振り向いてくれたらなぁ」

    虚しい独り言が宙を舞っては消えた。
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    しふりしゃ

    MAIKINGこんな感じの小説を……書く気がする
    鬱蒼と茂る森の中。ビショップが歩を進める度に木の葉と枝が潰れる音がする。それよりも絶え間なく響いてくるのは、銃声と金属音。白兵と黒兵がぶつかり合う戦場の中を、ビショップは他の兵も連れずに歩いていた。ただ一つの目的のために。
    「白のルークの首を取れ」。黒のキングがただ一言、ビショップに命じた事だ。白のルークが一騎当千の怪物であることは戦場中に知れ渡っていた。戦に出る技量はあるとはいえ、ビショップは一介の聖職者でしかない。つまりは死を命じられたも等しい。だがビショップにとって、キングの命令は絶対。逆らうことも、命乞いをすることも無く。ただ1人で白のルークが陣を構えている地に足を踏み入れていた。
    ビショップとしては単騎で敵陣に挑むからにはそう易々と幹部がいる場所まで辿り着けないだろうと想定していたが……いくら無防備な姿を晒して歩こうとも一向に敵兵が現れない。不気味な程に、だ。この状況が好機であると安直に考えるほど能天気ではない。完全に誘い込まれている。それでも足を止めることはない。ビショップにとって、キングの命令は何よりも重く何よりも正しい。命令の末に命を落とすことが出来たのなら、それは苦痛ではなく悦びだ。
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