2024.05.29
空気が揺れている。なにか音がする。それに誘われるまま瞼を上げると、夕陽が淡い金色を輝かせている。
「はぇ」
間抜けな音が出た。眼前にほとんど見る機会のない光景があったからだ。寝起きで油断したのと見とれたせいで、つい口がゆるんでしまった。
「燐音先輩? 起きたの?」
咄嗟にもう一度眠ったふりをする。どうしてってそりゃあ、この時間の終わってしまうのが惜しいから。
さっき見上げたのは少年のおとがいで、俺を呼ぶ声だってよく知っている。寝かせられている暖かいのは藍良の腿だった。おまけに、頭まで優しく撫でるサービス付き。さっき聞こえたのは鼻歌だろうか。やけに機嫌が良さそうだった。
「ん〜? あれェ、いま声がしたのに……?」
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