しょせん前借りひとつだけ、お願いがあります。
「なに」
疑わしそうな視線でこちらをじっと伺う彼は僕の要求を警戒しているのが丸わかりで、僕より年上とはいえ、1歳しか違わないという事実を証明している仕草が微笑ましい。
大人になりきれない幼い者の仕草だ。愚直で露骨でその癖僕のことを見くびっているからこそ無防備な反応。僕が彼を害すことはないと、酷いことをするわけがないと信じている。こちらの脳内なんかお構いなしに。ああ、なんて傲慢なひと。かってに他人の心を決めつけるだなんて。
「1日だけ、あなたの声を貸してください」
「は?」
「なんです?ご不満ですか」
「いや、てっきり難題を押し付けられるかと」
もじもじと両手をまるめて、口籠った彼はどこか安堵したようだった。『ちょっと』無理をしたら叶えられるくらいの要求をされるとは考えていたらしいけれど、僕の提案に拍子抜けしたのだろう。
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