八杉お題①隙間風が少しだけ入る事務所でも、暖房をつければそれなりに暖かい。八神さんの書類整理をしているのを待っているうちにどうやら僕は寝てしまったみたいだ。
薄っすらと目を開けると、90度倒れた世界をぼーっと眺める。向かいの一人掛けのソファーに腰かけた八神さんと、書類越しに目が合った。
「杉浦?」
そう呼ぶ声は酷く優しい。
「待たせ過ぎたな、悪い……おはよ、まだ眠いか?」
ローテーブル越しに腕が伸びてきて、目にかかってしまっていた僕の前髪をそっと除ける。
こんなに優しくされるのは、大事にされるのは、嬉しいけれども、とてもくすぐったい。
きゅう、と嬉しさに心臓が鳴る。あぁ、心臓が痛い。
「……おはよ、八神さん」
寝起きの喉では少し声がかすれる。額をくすぐる指の気持ち良さに目を細めた。
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