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    うちよそテーマのグウィンとキースが話してるだけ

    食べ物を贈る話この世界では、出生日を祝う文化があるらしい。
    それは誕生日という名称で人々に親しまれており、天より恵まれた生命に感謝し、産まれてから重ねた歳を成長として喜び、その感情を皆で分かち合う特別な日なのだという。その日を迎えた人間にはオメデトウと声を掛け、誰かが用意したケーキという食べ物を分け合って食べ、祝福の気持ちとして何か物を贈るのだと。
    初めてその習慣を耳にした時、文化の違いに言葉を失った。生まれ故郷に歳を重ねる文化はあれど、それはあくまでも生死の試練。毎年課せられる課題を乗り越えた強者だけが生にしがみ付くことができ、それ以外は地に還るまで。
    乗り越えたことを褒め合う文化はなく、ただ日々を生きることに精一杯。そんなグウィンは自分の出生日を知らない。年齢だって正確なところは分からず、己の身体に纏わり付いている鱗の強度でおおよそこのくらいだと言える程度。
    しきたりを説く人物の話を聞きながら、きっと自分には関係がない習慣なのだと、聞いたそばから忘れることにした。そんな状況の人間に出逢った時に、その場で対処すれば良い、と。

    聞き流したことを後悔する日は早かった。
    冒険を始めてひと月も経たない頃、アイツの誕生日が訪れた。
    旅に出る前から何かと世話を焼いてくれ、間違いがあれば都度指摘し、正しい道へ導いてくれるソイツのトクベツな日を知らなかったで済ませるわけにはいかなかった。
    あの日学びの時間を与えてくれた人物は、もうそばに居ない。忘却の彼方にあった記憶を手繰り寄せ、繋ぎ合わせた風習を紐解くと、物を贈る習慣に行き着く。
    ーー物で祝うっつったって…アイツ何が好きなんだ?
    不要な物を贈ったところで、それは自己満足に過ぎない。必要な物を贈り喜ばせることで初めて意味があるのだとグウィンは思い至ったが、肝心なところでアイツのことを何も知らないのだと気がついた。
    普段ふたりでいる時に皮膚を撫でられることがよくある。人肌の体温が心地好いことはその手のひらで知っているし、与えた時の充足感や触れずに居られない謎の衝動も心得ているから、好きなだけ触らせているしあの行為が好きなのも分かっている。
    ーー他の好きなモノ……。
    とはいえそれをあげることはどうしてもできない。アイツに会って同じ時間を過ごしたとて、それは普段通りで何もトクベツではないからだ。
    思考を変えて別のものへ。身の回りのものから連想して小動物に至ったが、それはあまり得意ではないのでパス。
    「海………?」
    歩きながら思考に耽り、爪先が柔らかいものに当たったことでヒントを得た。声に出すことで、脳裏で物事が線を繋いでひとつにまとまる感覚が走った。
    今いるここは見渡す限り青の世界。低地ラノシア、リムサロミンサ近くの街。この近くのアパルトメントにアイツは住んでおり、部屋の中でもさざなみの音が聴こえ、魚拓や浮き輪など海に関わる家具が収まっている。
    独り立ちしてグリダニアを出た後、ここに落ち着いたのだ。きっとアイツは海が好きに違いない。
    そう思い至ったや否や、グウィンは習得したテレポを使ってこことは違う開放感のない砂臭い都市へと飛び立った。今日が何の日か告げて悩ませた人物へ、このツケを払わせるのだ。

    「はい、獲れるだけ獲ってきたよ」
    家に到着して開口一番。無茶な呼び出しを使用人のムーンライト越しに伝えて待つこと三十分。
    テーブルの上に並んだそれらを一瞥して、眉を潜めた。
    目の前の女、キース。ここの家の主人であり、俺の家族。そして事の発端。最近自給自足生活をしていることから、世界各地の海を知る女として、使用人を使って海で食える一番美味い物を獲ってくるように命じたのだった。
    しかし目の前に広がる光景は、青。海そのものに溶け込んで消えてしまいそうで、色味としてあまり旨そうには見えない。
    「コレの何が美味いんだ…?」
    触ると甲羅にトゲがありチクチクした。ふたつ伸びている手のようなものを掴むと、生きたそれは暴れて皮膚を噛んでくる。鱗で感度が抑えられているが、アウラ以外の種族だと痛みを覚える強さである。
    一応タベモノであるから乱暴にはせず、手を引っ張った。簡単に千切れたそこからは磯の匂いがした。
    「このまま食べるもんじゃないわよ。茹でてそのままお鍋にしたり、煮込んで味付けたりして食べるの。身がプリプリで濃厚で柔らかくて美味しくてね…食べると酒が進むのよこれ」
    想像したがこのゴツゴツが美味くなるイメージは沸かなかった。使用人にお湯を持ってくるよう指示して、味見してみないことには分からない。
    「簡単に味見するなら、これでも食べる?あ、言っておくけどこれフレに作ってもらった特注品だから。あげないよ、一口だけだからね」
    待つ間、キースは所持品から円形の茶色い食べ物を取り出した。あんたには百年早いから、と余計な釘を刺しながらも試食はさせてくれるらしく、渡されたそれをまじまじと観察した後、口の中へ放り込んだ。
    それは甲羅の原型がない不思議なものだったが、舌に到着した途端サクサクと香ばしい衣と潮の濃厚な旨味が広がり、喉を通過するまで一瞬のこと。たった一口味わっただけでも、まだ舌の上には強烈な味が残っている。これは美味い。
    「コレ何だ」
    「クラブケーキ。ギャザラーする人にとってはサブステも美味しい高級食品よ」
    ポポトよりもどうのこうのと続く話は聞き流す。何を言っているかそもそも分からない。食べ物の名前を聞き、今日に相応しい名前を持つことに奇跡を感じた。この日はケーキを食べて、人を祝うのだ。美味いケーキを送れば喜ばないやつは居ないだろう。おまけに海産物。そうと決まればやることはひとつ。
    「一個くれ」
    「話聞いてた?やだよ」
    押し問答にあれやこれや条件を付けて最終的にシュッセバライということで折り合いを付ける。意味が分からない言葉のひとつだが、冒険者を続ければいずれ為せるものだろうから。
    分け与えて貰ったそれをなくさないようにがめにの鞄の中に入れ、テレポで活動拠点へと戻る。
    ワープ中に戻ってくるムーンライトの姿が見えたが、後のことはキースに任せても問題ないだろう。
    直接渡しに行くか、それともモグレターで送るか。オメデトウ以外に伝える言葉はあるのか。
    折角久しぶりにこの家に来たのだから、その辺りの話も聞いてくれば良かったと、見慣れた風景に戻ってから少し後悔をした。
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