ジェ←モブ(not恋愛)罪な人だと、常々思っている。
ベロブルグの堅固な盾となることを志して入隊試験を受けたのは何年前か。入隊試験といっても、命令通りに動かせる手と足があれば誰でも合格した。当然のことだ。前線には人が足りない。
士官学校も出ていない自分は頼りない斧と甲冑を与えられ、歩兵として雪原を駆けた。駆けるうちに、志は次第に失われた。胸の内は弱音と恨み言に埋め尽くされ、生き残ることだけを思うようになった。そうした自分は今や隊長だ。なんのことはない。同期より長生きしただけだ。
それでもまだ退役までには折り返しという年齢で、シルバーメインから足抜けするつもりでいた。
恋人ができた。片目を失った。それで辞めたいと言う自分を責める人はいなかった。
そんな時分だ。彼が入隊したのは。
ジェパード・ランドゥーはあまりに美しかった。
士官学校を卒業したばかりの彼は、自分の上官になった。だからと言って恨み言など生まれない。
彼が誰よりも強く丈夫で、気高く、美しかったからだ。
敵に、仲間の死にも怯まず、薄氷のような鋭い瞳で前だけを見据えて、突き立てた盾を少しも後退させることはなかった。
繊細な陶器の作り物のような形をしているのに、誰もそれに罅が入ることすら想像しなかった。実際には彼の白磁の肌は幾度となく傷つけられていたというのにも関わらず。
彼こそがベロブルグの盾だった。
そして、彼もそうであることを疑っていないようだった。
あれよと言うまにジェパード・ランドゥーは我々の長官となった。自分はシルバーメインを辞められずにいた。
辞められないうちに、遂に片目どころか脚を失った。流れる血を止めることもできなければ、立ち上がることすらできない。
周囲には誰もいない。よかった、と思う。
自分たちの隊は城外で殿を務めたのだ。本隊はきっと無事に禁区の跳ね橋を上げたはずだ。そのために、隊員を死なせてしまった。そして自分もじき死ぬ。よかった、と再度胸を撫で下ろす。裂界の化け物も死に体に興味を失ったようで、静かに逝けるのも幸いだった。
身体に動かせる部位はひとつもない。吹雪いて白いばかりの空を見つめていれば、不意に、その切間に鮮やかな青色が見えた。聞いたことがある。空とは元々あんな色をしているらしい。
彼の色だと思った。雪原の白と、空の青。誰よりも彼に似合っている。
自分は、ベロブルグの為ではなく、貴方の為に死ぬのだ。
誰に言うこともなかったが、真実、そうだった。
どうか、彼がいつまでもベロブルグの美しい盾でありますように。
脳裏に過った彼の幻影を留めようと目蓋を閉じて、私の生涯は終わった。