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    尚 道

    @naomichi924

    尚道です twstのエスデュでトチ狂っている ツイッターに上げたイラストやら小ネタをまとめた倉庫

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    尚 道

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    エスデュWEBオンリー開催おめでとうございます~!
    今回も小説と漫画を書きました。少しでも賑やかしになれば嬉しいです!

    ・エースがデュースを好きになったきっかけをベッドでだらだら話すお話です。
    ・R指定な描写はありませんが、全部ピロートークなのでご注意ください。

    いつから、だなんて「……こういうことを聞くのは、嫌がるかもしれないのだが」
    「…………うん?」

     いつものオンボロ寮の一室で、どこか湿り気を帯びた空気の中、全裸のまま仰向けに寝そべるデュースは、妙な前置きをして話し始めた。
     情事の余韻を楽しむように擦り合わせていた指先から、躊躇いが伝わってくる。


     オレたちにとっては、……いや、少なくともオレにとっては、デュースとのセックスは少しスポーツに似ていた。開始時のテンションに応じて、いきなり全力を出したり、相手の出方を見ながら慎重に進めたり。お互いの欲望っていうボールをぽこん、ぽこん、と投げ合うような。そういう時の事後は、甘い空気というより爽快感の方が強い。まるで一勝負終えたかのように、キスのひとつもせず、とっとと片付けて服を着て、「じゃあ寝るか!」って感じですぐに眠りにつく。酷い時は背中合わせでぐーすか寝たりする。

     けれど、時折。ごくたまに。しっくり来る、という言葉以外思いつかないくらいの手合わせになる時がある。……言葉を選ばずに言ってしまえば、そう、「愛し合う」っていう感じの。こっ恥ずかしいけど、そうとしか表現できない。

     心に覆っていた何かをべろりと剥いで、奥の、再奥までまさぐり合う愛撫に夢中になって、身体だけじゃなくて心まで溺れそうな程満たされる。ひとつになる、なんて陳腐な言葉があるけど、まさしくソレって感じ。好き、大好き、愛してる、なーんて想いが溢れそうなほどたぷたぷと湧き出て、なに考えてんだ、ヤバ過ぎんだろ、って突っ込む自分もいるけど、全身を充満する幸福感には抗いようがなかった。
     愛し合った後(正気か? と思うけど仕方がない)は、ハチミツの中で泳いでいるかのような雰囲気になる。鼻同士を擦り合わせたり、軽いキスを繰り返したり、手足を撫で合ったりしながら眠りが訪れるのを待つ。言葉にしたら逆に白けそうで「好きだ」なんて言わないけれど、正直、そう言い合ってるようなもんだと思う。
     今回は、後者だった。気を抜くと愛おしい気持ちが喉から飛び出そうで、むりやり魔法解析学の公式を頭の中に張り巡らせながら指先を絡めていた中での会話だった。


     ……嫌がるかもしれない、ってなんだそれ。
     じゃあ言うなよ、と返したいところだったけれど、好奇心の方が勝った。それに、こいつは、オレが本当に嫌がるような質問をして来ないという変な自信があった。
    「別にいーよ。なんなの」
     遊ぶ指先をぐっ、と握りしめて鼻先を近づけると、言いにくそうに目を泳がせていた。……言い出したのは自分の癖に、なんなんだ。
     それでも根気強く待っていると、たっぷり言い淀みながら、ようやくといった体で言葉を発した。

    「その……、お前、僕のこと、……いつから、好きだったんだ?」

     へ。……へ?

    「 ……なんだそれ。今更、それ?」
    「今更って……。確かに、そうだが……」
    「 へぇ。デュースくん、そういうの、気になっちゃうの? もしかして、気になってたの?」
     どれだけ嫌なこと聞かれるのか期待してたのに、なんだ。拍子抜け。オレの揶揄う声に、デュースはあからさまにむっとした表情を浮かべた。
    「だから、くん、はやめろって。……言いたくないなら別にかまわない」
    「わりぃわりい。好きになった……、ねぇ。なんでだろーね?」
     手の甲と指先で、猫を愛でるように顎をくすぐると、眉根を寄せ、下唇を尖らせた。
    「……もういい」
     鬱陶しそうにオレの手を軽く振り払い、起き上がって下着を手にしたデュースの手首を、押し留めるように軽く掴む。
    「……逆に聞くけどさ、デュースはいつからなの」
    「え」
     口をぽかんと開け、目を丸くした。こう返されるとは想定していなかったのだろう。
    「オレのこと好きになったときがあんでしょ」
    「あぁ……、まぁ、そうだな」
     起こした上体をぽふん、とベッドに戻し、今度は躊躇わずに真っ直ぐオレと視線を合わせ、澱みなく返して来た。
    「お前が僕のこと好きって言ったときからかな」
    「……へ。何それ。じゃあ、それまでは好きじゃなかった、ってこと?」
    「いや、別に嫌いじゃなかったが。……『そういう』意味の好きではなかったな」
     目の前がくらり、と歪んだような気がした。……ま、そうだよな。オレが打ち明けてしまったせいでこんな関係になっちゃったんだ。オレが踏み込まなければ、今でも「マブダチ」でいられた。後悔なんてもうしてはいないけれど、僅かに後ろめたさは残る。
    「そんな顔するなよ。前にも散々言っただろ、別にほだされたわけじゃない。……お前を『好き』になる、っていう可能性に気付かなかっただけだ」
    「…………へえ」
     なんか、余計良くないような気がする。オレが嵌めたみたいじゃん。まぁ、実際ハメたけど。って、下ネタはいい。
    「好きじゃなきゃ、ケツにちんちんぶち込まれてよがるなんて、許せるわけないだろ」
    「お、ま、」
     珍しく露骨な物言いをしてきた。……しかも、真顔。なんなの、相変わらずおもしれー奴だな。
    「まぁ……オレも、最初は全然好きじゃなかったな。朝から晩までこの真面目くんと一緒だなんて、最悪だ、って思ってた。部屋を別にして欲しい、って何度も思ったっけ」
    「このやろ……、ふっ、ざけんな。俺だってそう思ってた。こんなチャラい奴と部屋まで一緒だなんて、テメェの運も尽きたもんだな、って絶望したぞ」
    「ハハ、言うじゃん。なつかしー」
     負けじと鼻息荒く言い返して来たデュースの頬を手の甲でぺちぺち、と叩くと、ぎゅっと顔をしかめてオレから距離を取った。
    「……なのに、なんでこんなどろどろのセックスをするまでになったんだろーね。今でも不思議になるわ」
    「たしかに、な」
     オレの表情に気を良くしたのか、デュースは眉間に皺を寄せたケンカ腰の顔を一気にとろけさせた。ふにゃりとした、オレだけに見せる、甘い顔。
     ……かっわいいの。なんて。今は思っちゃうんだもんなぁ。あーあ、やべーな。
    「でもさ、……ほんとに、どうしていつから好きだった、なんて聞きたくなったの。そういうの、気にしないかと思ってた。らしくねーじゃん」
    「悪いか」
    「悪かねーよ。……そうだな……」

     いつから、か。
     ……覚えてる。そう、確かに最初の頃は好きどころかむしろ嫌いだった。ニコイチ扱いする周りがうざったくて腹立たしいくらいだった。「エーデュース」だなんて呼ばれた日には鳥肌が立った。それはこいつの方も同じだったと思う。
     それでも、何かとつるんでるうちに、意外と面白い奴だな、と思うくらいに気持ちは変化してきた。嫌いというより、好き……違うな、居心地が悪くねーな、って程度。ワクワクすることも多かったんだよね。何かと面倒なことで振り回され、腹が立つこともあったけれど、正直言って退屈するより断然マシだった。
     大きく変わったのはVDCのときだと思う。あのイベントは、オレたちの関係を変えるきっかけになったと言っても過言じゃないはずだ。ぐっと距離が近くなった気がしたし、他の奴とはなんだか違うな、って思い始めた。こういの、悪友っていうのかも、って。……そして。
     当然、始めは自覚がなかった。好意にも色々ある。そばにいて、違和感ない感じ。ちょっと悔しいけど、悪友というより、もしかしたら親友ってヤツ? デュース流に言うなら、マブダチ? まじかよ、恥っず。……ぐらいの、好意。
     ……それが、違うんじゃないかと薄ぼんやりと思い始めたのは、……あの、朝のことだったと思う。

    ■■春■■■■■■

    「あっつ……」
     変な寝汗と、喉の渇きを覚えて、目が覚めた。部屋はうっすらと明るい。明け方だろう。枕元の携帯を見ると、起きるにはまだ早い時間を表示していた。
     その日、妖精とひと悶着あったとかで、寮内は空調が効いていなかった。春先とはいえ、暑さを感じるほど気温は高めだった。寝る前、あっちいな、と言って部屋着のボトムを脱いでパンツ1枚になったら、ルームメイト3人も「それもそうだな」とぽいぽいパンツ姿になった。男子校って感じだなぁ、とバカみたいに笑いながら眠りについたのを覚えている。

     水が飲みたい、と身体を起こす。うんと冷たいのがいい。トイレに行くついでにキッチンに寄ろう。パンイチはまずいよな、とボトムをさっと履き、静かに立ち上がる。
     ふわぁ、とあくびをしながらドアに向かうと、隣のベッドからかすかに漏れる変な音に視線が行った。
     デュースだ。口からキコ、なんて音をさせながらも、熟睡しているようだった。……変な奴。
     そういや、こいつの寝顔なんてあんまり見たことないな、と近づいてみる。オレは寝起きがあんまり良くなくて、起こされることも少なくないのだ。癪だけど。
     Tシャツの裾がまくれ上がって、ヘソが見えていた。片手はマヌケ面の横で、もう片方はパンツの中、腰骨あたりに置いている。分かる、そこに手を突っ込むとなんとなく落ち着くよな、と笑いそうになった時だった。

     ……うわ。

     パンツが膨らんでいた。薄暗がりでも分かるくらい、不自然に。
     すぐに目線を逸して俯く。
     やっべー、見たくないもん見ちゃった。生理現象とは言え、ルームメイトの勃起なんて勘弁願いたいね。
     ……なんて。勝手に見ておいて何考えてんだか。
     そそくさと部屋のドアを開けて、廊下をこっそり歩く。

     それにしても。勃起、するかぁ。……そりゃあ、するよな。男だもん。
     デュースとは「そういう」話をほとんどしたことがない。以前、ちょっとした下ネタを振ったとき、全く意味が分からなかったらしく、あろうことか真顔で事細かく説明を求めて来たのだ。(ちなみにその場にいたグリムも同じ顔をしていた。監督生は肩をぶるぶる震わせながらグリムの耳を塞いでいた)くだらない下ネタを解説、なんてうすら寒い展開、拷問かっつーの。
     以来、猥談は避けてきた。あいつなんかに純粋とか清潔なんて言葉使いたくねーけど、漠然と性的な匂いがしないような気がしていた。
     けれど。膨らんだ股間を見て、当然の事実に拍子抜けした。なんだ、優等生気取ってスカした顔してるけど、身体はオレと同じなんだ、って。……いや、正確には優等生じゃなくて、ヤンキー上がりだけど。

     じゃあ、ひとりでやることもあんだろうな。当たり前か。
     ……どうやってすんだろ。ふつーか。……ふつーってなんだ。オカズは何だろ。やっぱ動画かな。つーかどこでやってんの。窮屈な寮生活、下半身もおちおち面倒見てらんねーよな。

     思考がどんどんおかしな方向へ向かっていることに、オレはてんで気付かなかった。

     いつもガンつけたり、頼りなく困った顔してるけど、やらしー顔もすんのかな。するだろ。睨みながらイク奴なんていねーって。はは。
     イクこともあるか。そりゃそうだ、イカなきゃ終わらない。
     え? もしかして、えっちしたことあんのかな。あの顔で? いや、ねーだろ。好きな奴とかそんな話も聞いたことねーぞ。人間よりマジホイに恋してんじゃねーの、って感じじゃね? ないない。……ないだろ?

     気付くと、トイレの前に立っていた。
    「…………え?」
      オレ、今、何考えてた?

     そこで、ようやく相当ヤバい思考を繰り広げていたことに気付いた。
     何。なんなの。どうしちゃったの、オレ。
     髪をぐしゃぐしゃにかき回して、思考を振り落とすように頭を振った。
     寝ぼけてるんだ。
     頭の中を、魔法解析学の公式で埋め尽くしながら、トイレに行って、キッチンで水を飲んだ。
     部屋に戻ると、デュースはシーツを巻き込むように身体を横に丸めて眠りこけていて、オレは少しほっとした。
     もう一眠りしよう、とベッドに身体を沈める。
     ……結局、眠気は一切訪れては来なかった。


    □□□□□□□□

    「うわ、あのとき? お前、僕の朝立ちで興奮したのか?」
     信じられない、といった表情でオレを凝視している。
    「うるせ、興奮まではしてねーっつの!」
    「だが、僕で抜いたんだろ」
    「抜いてねーよ!…… このときは、まだ」
    「ってことは、このあと?」
     好奇心の塊みたいな顔で無遠慮に聞いてきやがる。イラッとした。無神経だっつーの。
    「うるせーな。オレで抜いたことないお前に言われたくねーわ!」
    「は? ないなんて言ったことないだろ」
    「……ん? どういう意味? オレで興奮したことあるってこと?」
    「なくはない」
     ちょ、表情を変えずにさらりと言ったけど、すごいこと言ってね?
    「……いつ?」
    「お前と初めてやる前。具体的にイメージしたわけじゃなくて、ぼんやりとだが」
    「へ、え……?」
    「じゃなきゃ、お前とやりたい、なんて言わない」

     ……そうだった。初めてベッドに誘ってきたのも、初めて後ろをせがんできたのもこいつから。欲情したんじゃなくて、義務感みたいな誘い方だった記憶しかないけれど、……案外、期待していたのだろうか。思い返すと、どうだったっけ? とバグったような感覚になる。
    「イメージって、どんな? オレに挿れられてるのとか?」
    「バッ……カ、そんなの思うわけないだろ! だから、ぼんやりとだ、ぼんやり!」
     ぺちゃ、と手のひらで視界を遮るように目元を覆ってきた。
    「んぐ……、何すんのよ」
     ま、そりゃそうか。初体験、あんなに初々しかったんだ、セックスなんてイメージできるわけないよな。……お互いに。オレだって突っ込まれてよがるデュースなんて想像もつかなかった。アナルセックスを知らない童貞のイマジネーションなんて、たかが知れてる。
     それが今や、……なぁ。おもしれー。
    「じゃあ、オレのやらしー顔とか?」
    「…………いや、……ええと……」
     枕に半分埋もれた額に手をやり、目を合わせようとすると、口をへの字にして視線を彷徨わせていた。おい、分かりやす過ぎんだろ。
    「で、このときに僕のこと好きって思ったのか」
     誤魔化すように軽く睨みを効かせながら聞いてきた。照れたときにすぐガンつけてくるんだよね、オレの彼氏は。ガラの悪さはこんな関係になっても変わりゃしない。
    「あー……、違う。このときじゃなくて……」


    ■■幽霊の花嫁■■■■■■

    「つっつかれたー!!」
    「僕はまだ身体中がぎしぎし言ってるぞ……今すぐ眠りたい」
    「お前はそうだろーね」
     あんな時間まで身体を硬直させられてたんだ、相当だろうな。
    「早く戻ろ……ふあ……」
     口をデカく開けて欠伸をするデュースは、半分くらい寝ているようなボケた顔をしていた。

     花嫁事件。日付が変わっても食堂の片付けをさせられて、オレたちはクタクタだった。その上、オレの方はプロポーズもどきをみんなに散々いじられて疲労は限界突破寸前だった。あわやオンボロ寮で上映会、ってノリには全力で阻止しようと思ったけれど、時間が遅いという理由で有耶無耶になって心底ほっとした。
     
     部屋に辿り着くまでの暗い廊下を歩く。靴音だけがコツコツと鳴り響く中、デュースはまるで内緒話をするかのように小声で口を開いた。
    「……こんな時間に堂々と廊下を歩くなんて変な感じだな。普通なら首を刎ねられる」
    「へ」
     悪戯っぽい声にひょい、と顔を横に向けると、常夜灯の暗さでも分かるほど子供みたいにニヤニヤしていた。確かに、隠れて悪戯をしでかした後のような感覚があった。
    「……そーね。共犯者っぽいかもね」
    「うん? 何も悪いことはしていないぞ」
    「お前ね……」
     冗談の通じない奴だな。
    「……悪いどころか、」
     すぅ、と小さく息を吸う音が聞こえた。
    「ん?」
    「お前、ちょっとカッコ良かったぞ」
    「…………は、あ?」
     マヌケな声が出た。反対にデュースは真面目くさった顔をしている。
    「チャラそうに見えて、案外ちゃんと考えてるんだな」
    「褒めてんのかよ、ソレ」
    「あ? え? 褒めて……るわけじゃない、いや、褒めてるのか?」
     頭を傾け、顎に手をやるデュースを見て、くすぐったさを感じる。

     ……なんだろう、この空気。
     前から少し思っていた。さっきのようにみんなと一緒の時と、今みたいに2人きりの時では、距離感がおかしい気がする。露骨にイジってくるようなことはあまりせず、こんな風にいきなり妙に褒めて来たりする。調子が狂う。ま、悪い気はしないけど。
    「なーに言ってんのよ。お前の方は手も足も出なかった癖に」
     何気なくぺしん、と肩の辺りを叩くと、心臓が跳ねた。……ん? んんん?
    「うるさいな。お前みたいに慣れてないんだ」
    「べっつに慣れてねーよ。でも、お前よりはマシかもね。……まじで、付き合ったことねーの?」
    「言っただろ。そういうの、ない」
    「好きな奴も?」
    「……ない、と思う」
    「…………ふーん」
     じゃあ初恋もまだかよ、ヤバくね? なんて揶揄おうとしたけれど、やめておいた。顔から火が出そうなプロポーズもどきを蒸し返されたらたまったもんじゃない。
     そもそも、疎いこいつなんかと恋バナもどきをこれ以上続けても意味ねーな、と思ったのだ。……まだ、この時は。

    □□□□□□□□

     黙ってオレの話を聞いていたデュースは、ここで思い出したように口を開いた。
    「そういや、ガールフレンドいたんだっけ……」
    「え?なに、妬きもち?」
    「ち、違う、ミドルでちゃんと恋愛してたなんて、進んでんな、って思っただけだ」
    「ちゃんとなんてしてねーよ、言ったじゃん、ノリっていうかママゴトみたいなんだって」
    「だが、キスくらいはしたんだろ」
    「いやいや、キスにカウントしないようなのだって!」
    「したんだ」
    「妬くなよ」
    「妬いてない。それで良く僕なんか選んだな、って思っただけだ」
    「……オレも……」
     なんでお前なんか選んじゃったんだろ、と続けようとして口をつぐんだ。
     違う。ここは茶化すところではない。ノリでお前とは付き合ってはいない。

     なんでこいつじゃなきゃダメなんだろう、とは何度となく思った。別に、わざわざこんな頑固で小憎らしい奴を選ばなくても、とも思った。
     けれど。……やっぱりお前じゃなきゃ、嫌だ。お前の隣に立つのは、オレじゃなきゃ。そして、オレの隣にはお前がいなきゃ、ぜってーに、嫌だった。何があっても、誰にも、譲りたくはない。

    「……なんだ、その顔」
    「まーね。お前も良くオレを選んだね」
    「確かにな……で、このとき好きに?」
    「いや、違う」
    「一体いつなんだ……」
    「いーよ、別に聞かなくても」
    「いや、聞く! 言ってくれ」
     慌てて身を乗り出して来る。必死かよ。


    ■■ハロウィーン■■■■■■

     入学したときから、男4人を1部屋に、って言うのは無茶だと思っていた。全員揃うと嵩張って窮屈さに息が詰まりそうになる。これが理由で早く進級したいとすら思うくらい。
     だから、デュースが学園外の交流会とやらで外泊すると聞いたその日、オレは少しだけ嬉しかった。1人でも留守にすると、それだけでも随分部屋が広く感じるのだ。嬉々として旅の準備をするデュースが羨ましくないと言えば嘘になるけれど、ま、その分ゆっくり眠れるな、なんてのんびり構えていた。
     ……ただ、そう思えたのは部屋のドアを開けるまでだった。

    「ただいまぁ」
     ハロウィーンイベントを終え、遅い時間にようやく帰って来れた自室は真っ暗で、もぬけのからだった。
    「……あー……」
     ……そうだった。デュースだけではなく、ルームメイトの2人もハロウィーンの関係で外泊すると言っていた。
     ひとりきりかー。こんなこと、初めてじゃないだろうか。こんなことなら、オレもオンボロ寮にでも行けば良かったかも。いや、1人で行ってもつまんねーな。あいつもいないと。……って、何考えてんだ、オレ。
     なんとなく眠るのが勿体なくて携帯を手にベッドへ寝転がった。消灯にうるさい寮長も真面目くんも留守なのだ。そもそも、ハロウィーンという非日常のおかげで、寮全体は浮足立ったふわふわした雰囲気だった。
     しばらく動画を見たり、ゲームをしたりと、ひとりを満喫した。……けれど。静かだった。気持ち悪いくらい、嘘みたいにしん、としていてる。

     ……つまんね。

     ふと思い出して、マジカメのアプリを起動する。
    「えー、何着てんのぉ」
     奴は画面の中で、見たこともない服を着て弾けんばかりの笑顔を浮かべていた。
     ……いーな。楽しそ。くじ引きなんてずりぃよな。
    「……あーあ……」
     ぽい、と携帯をベッドに投げ出し、真横のベッドを眺める。つまらない理由は認めたくはなかった。
     身体を起こすと、ベッドボードに何か貼ってあるのが見えた。
    「ん? 」
     なんだあれ。何貼ってんだ?
     自分のベッドから立ち上がり、デュースのベッドにどすん、と乗り上げる。
    「はは、すげー」
     他の奴はグラビアとか貼ってたりすんのに、お前はコレかよ。
     貼られていたのはマジホイのカードだった。トレカみたいなサイズで何枚か。ホログラムみたいにキラキラしたのもあって、レアだと分かる。
    「ほんっと、好きなんだな……」
     枕を胸の下に敷いて、カードを眺める。マジホイに詳しくはないけど、カッコいいな、とは思う。
    「…………」
     なんだかな。真剣にマジホイがコイビトだ、なんて言われても驚かないような気がしてきた。……マジホイとラブラブデート。さ、さっむ……。
     でも。付き合った人はいない、って言ってた。……ということは、童貞なんだろうなぁ。ま、オレも同じですけど。
     ……それでも、いつかすることにはなるんだろな。好きになった、誰かと。
     どんな風にするんだろう。自分から脱ぐ? 脱がされる? あれでいて、男だもん、リードとかすんのかな。……できんのかよ。真面目一辺倒か、不良崩れの顔しか想像つかないけれど、興奮した顔すんの? どんな顔だっつの。肌を触って、触られて、声とか……、
    「…………」
     すん、と枕の匂いを嗅ぐ。
     朝、いつもオレを揺り起こす無愛想な手のひらを思い出す。
     着替えの時に見える、やけに白い背中。腹。……胸。
     ああ……、この感覚……。オレ……。

     おい。
     
     エースくんよ、何考えてんだ。やめておけ。バカな真似をするな。ダメだ。
     頭の中で必死に叫ぶ声がする。
     でも、心の奥底に燻り出した「これ」は一体なんだ? 知りたくないか? 「これ」が何か、確認したいんだろ? 心の中は自由だ、いいじゃん、ぶちまけちゃおうぜ。
     反対に、誘惑するように囁く声も鳴り響く。

     やめろ。

     キツく言い含める声が聞こえたけれど、身体は聴いちゃいない。
     無視を決め込み、ボトムをくつろげて、形を変えてしまった自分を握る。

     ダメだって!

     分かってる、ダメだ、ぜってーダメだ。ありえない。
     でも。
     むりだ。頭の中、あいつの顔でいっぱいで、消せ、ない……


    「……ッツ!! …………ツ、は、ハア……あ……あーーーー……」

     ……あ、あ……やっ、ちゃっ、た……。 
     まじか。
     だって、デュースだぜ。あの、不器用で頑固で猪突猛進で、考えなしの。
     まじかよ。
     嘘だろ。

     全身を覆う脱力感が酷い。それに合わせて、この、嫌悪感。
     どうして警告を無視した。雪崩のようにどっと後悔が押し寄せる。賢者タイムなんてモンじゃない。虚しさと情けなさと気持ち悪さのスーパーコンボ。
     逃げるようにデュースのベッドを後にして、自分のベッドに崩れ落ちる。
     何考えてんの、オレ。信じられない。ありえねー。最悪。最低だ。くそったれ!
     ぐっ、と唇を噛み締めてベッドから飛び起きる。ダメだ、頭を冷やさないと。オレはタオルを握りしめて浴室へ向かった。
     オレはこの期に及んでも、まだ何かの間違いだと思っていた。いや、……思い込もうとしていた。


     翌日はデュース以外の奴とハロウィーン最終日を楽しんだ。夜にはルームメイトも帰って来ていて、部屋は3人だった。ルームメイトが「1人いないだけでやけに静かだな」なんて言ったけど、オレは聞こえないフリをした。
     別に、普段からずっと一緒にいるわけじゃない。あいつ以外と食事することだって普通にあるし、遊ぶことだってある。なのに。……なのに。
     2日続けてしん、と物音のしないベッドは、オレの心の穴を遠慮なく広げていくような気がした。

     デュースが部屋を空けた3日目は休日で、ハロウィーンの空気はすっかり消え去り、寮内はいつもとかわらぬ様相だった。
     退屈しのぎに、と先輩達を誘い、朝から談話室でトランプに白熱していると、正午前に玄関の方からわぁっ、とさざめくような歓声が聞こえた。
    「リドル、帰ってきたみたいだな。デュースも。行くか?」
     ぽい、とカードを1枚捨てながらトレイ先輩がオレに声をかけてくる。
    「行きませんよ。じきこっちに来んだろうし。それより、ポーカーやってんのバレたら面倒っスね、ここで終わりにしましょーよ」
    「仲いいんだからお迎えしてあげなよ」
     隣のケイト先輩がからかうように顔をニヤニヤさせてカードを投げ出す。ツーペアだ。
    「別に仲良くないですって。部屋一緒ってだけ」
     オレもカードを広げた。スペードの2から始まる、ストレートフラッシュ。……わざとじゃない。
    「うわぁ、エースはやっぱり強いな。今回こそ俺が勝てると思ったのに」
     トレイ先輩が放り出したカードはストレートだった。「やった」と獲物のコインを掴んだ瞬間、談話室に凛とした声が響き渡った。

    「今、戻ったよ。変わりはないかい」
    「ただいま戻りました!」
     扉の前には、ほっとした顔をしつつ、辺りを見回す寮長と、ゆるんだ笑顔を浮かべるデュースが立っていた。

     あ。
     ……あ。


     な、んだ、この気持ち。

     胸から全身に得体の知れない感情が駆け巡った。いや、違う、良く知っている。これは、……「嬉しい」だ。それ以外の形容が思いつかない程分かりやすい、「嬉しい」だ……。

    「…………ッ」
     握りしめていたコインをポケットに突っ込み、散らばったトランプをまとめていると、隣のケイト先輩が声を上げた。
    「おかえり、デュースちゃん! エースちゃん、ずっとつまんなそうだったんだよぉ~」
    「え」
     談話室の入り口で寮生と話していたデュースがひょい、と顔を上げた。
     は!? な、何を言い出すんだ! 笑えない、勘弁してくれ!
    「……何言ってんスか、もー。くだらないこと言わないでくださいよ」
     平静を装ってトランプをとん、とケースにしまい、俯いたまま立ち上がった。談話室を、……寮を、出た方がいい。
    「そうなのか!?」
     ぱたぱたと足音をさせながら、オレに向かって真っ直ぐ近づくデュースに、オレの心臓は妙な動きをした。
    「違うっつーの。お前がいないと部屋が広くて良かったくらいだわ」
    「な、なんだと……」
     唇を尖らせて睨みつけてくる。視線を感じて横を見ると、トレイ先輩は苦笑、ケイト先輩は笑いを堪えるような顔をしていた。
     まずい。普通にしないと。
    「じょーだん。で、どうだったんだよ」
    「それがね……」
     デュースの背後から、少し疲れたような声が聞こえた。寮長だ。
    「どしたの」
     ケイト先輩が聞くと、ふぅ、と息を吐いて寮長は珍しくソファに背中をつけて足を組んだ。
    「長くなりそうだ。ねぇ、デュース?」
    「ですね」
     寮長の隣にすとん、腰掛けてしまった。トレイ先輩が「じゃあお茶を淹れよう」と立ち上がる。
     ここで「オレは出かけます」なんて言えるほど神経は図太くない。それに、何があったのか気にならないと言えば嘘になる。
     心の中でため息をついてデュースの向かいに座り込み、腕を頭の後ろで組んで「それで?」と促した。

     ころころ表情を変えながら、身振り手振りで話すデュースを、どこか遠くから眺めているような自分がいた。
     こいつ、……こんな顔してたっけ。

     ……なぁ、オレがいなくてつまんなかったんじゃね? オレは、ちょっとだけ、つまんなかった。悪態でも、憎まれ口でもなんでもいい、いくら喧嘩したっていい。オレを退屈させないでくれよ。

     そして、オレと、…………、
     オレは…………、お前、を。

     高揚感と罪悪感が胸の中でぐちゃりと混ざり合うような音が聞こえたような気がした、そのとき。

    「おい、エース」
    「え」
     はっ、と見渡すと話はひと段落して、談話室にいたメンバーはそれぞれ散り散りになっていた。オレの隣にはちょこんとデュースが腰掛けていた。いつの間に……。
    「勝ったんだろ」
     含み笑いを浮かべ、ぐり、と肘で脇腹を小突かれる。瞬間、脇腹から全身に向かって鳥肌が広がった。思わずその肘を払い除け、ぶっきらぼうな声色を作る。
    「は? んだよ」
    「ポーカーしてたんだろ? 猫がいぬ間に鼠は遊ぶって言うもんな」
    「あ……?」
    「お前、顔がニヤけてたから」

    「え」

     あ。
     ……あ。
     胸に。すとん、と何かが落ちる感覚があった。

     ……本当は、薄々、勘づいていた。
     苛々させられたり、憎たらしいと思う時も少なくない。なのに、知れば知るほど、距離が近くなればなるほど……、
     3日という物理的な時間が否が応でもオレに自覚を促した。いや、その前に、あられもない姿を思い浮かべた時点で、どんな弁明も無意味に違いなかった。
     そして、何より。さっき、談話室に入ってきたデュースを目にした瞬間の、あの感情。あれが、全てだろう。
     認めざるを得なかった。ここまで来て、自分を誤魔化すなんて、もはや滑稽でしかない。

     ………ああ。
     そーだよ。
     好きだ。
     ……好きなんだ。



     湧き出た「好き」を肯定した瞬間、身体中の血がざあっ、と下に降りていくような気がした。
     知りたくなかった。これから、この気持ちと付き合っていかなきゃなんねーのか、と思うと、うんざりした。だって、どうしようもない。デュースは、クラスメイトで、ルームメイトで、ライバルだ。……拳を突き合わせても、繋ぎ合うような奴では、ない。


    「……エース?」
     訝しむ声が聞こえた。様子を伺うようにオレを見つめる、見慣れたはずのルームメイト。……胸に、ほんのりとあたたかくなるような気持ちと、そのぬくもりを奪うようなひんやりとした気持ちが同居している。オレは膝の上できつく握り拳を作った。

    「まーね。オレがポーカーで負けるわけないでしょ。……それより、お前、すげーな。アズール先輩に自分の魔法貸すなんて、正気の沙汰じゃない」
    「そ、それは……。バイパー先輩にも言われた……。だ、だが、ちゃんと話せば冗談も言うし、結構いい人だったぞ!?」
    「……お前ね、オレらあんな目に……、まぁいーや。それでピンチ乗り越えられたんだもんね。結果オーライじゃん。寮長も改めて慰労会するって言ってるし、良かったんじゃね。 ……んじゃ、オレ昼飯食いに行ってくるわ」
     本当はとんでもない「交流会」の内容に、「何やってんだよ、バカじゃねーの」と言いたかった。
     カッコつけんな、何無茶してんだよ。いつも言ってんじゃん、キャパ考えて行動しろって。
     大体にして、オレがいない時にそんな目に合うなんて、そんな、……そんなの。
     ……ダメじゃん。

     けれど。今は、とにかく早くここを立ち去りたかった。これ以上、コントロールできない自分の心を直視したくはなかった。
     談話室を出ようと立ち上がりかけた所で、隣から「え? あ、もう昼か」と声がした。
    「じゃあ、僕も行く。食堂だろ? 荷物置いてくるから待っててくれ」
    「え」
     さも当然のように言い放ち、ソファからスプリングを効かせてぴょんと立ち上がり、荷物を小脇に抱え、小走りで談話室を出て行った。

     ……普通だった。いつもと変わらない普通の、デュース。何もかも、全て、変わらない。
     そう、おかしいのは、……オレだけだ。

     当たり前か。オレの心に嵐が吹こうが、氷が一面に張り詰めようが、……花が咲き誇ろうが。そんなのは一切お構いなしに日常は流れていく。

     宙に浮いた腰をソファに再度落とし、身体を脱力させる。ひと気がまばらになった談話室をぐるりと眺め、額に手の甲を載せて大きく息を吐いた。

     仕方、ねーな……。
     胸に形を成した歪な爆弾はどうしたって爆発することは、ない。どうせ不発弾だ。
     エースくんを見くびってもらっちゃ困る。めんどくせー気持ちもうまく飼いならしてやるぜ。……なんて、自分に言い聞かせる。……大丈夫だ。うまくやれる。
     オレは、ポケットの中のコインを決意するようにぎゅっと握りしめた。

     この時のオレは、その不発弾が飼いならすどころか、数カ月後にあっけなく弾けることを、一瞬だって想像もしていなかった。それどころかこんな感情は気の迷いで、いつか消えてなくなるんじゃないかとさえ思っていた。
     ……ましてや、あんなに揉めに揉めまくることになるなんて思いもしなかった。デュースの性格を甘くて見ていたのだ。事故みたいな告白で弾け切ったオレの心をかき集め、ガチガチに引いた線を真正面から踏み越えて来たのはデュースの方だった。
     ……おかげで全裸で一緒に寝転がるような関係に至った。
     クラスメイトで、ルームメイトで、友だちで、……ライバルでもあるけれど、今の一番の呼び名は「彼氏」だ。まじか。未だに信じられない。
     
    □□□□□□□□


    「…………」
     デュースは枕に顔を付けて何も言わなかった。
     しまった。しゃべり過ぎた。耳と頬に熱が集まっていく。
    「……おい。何か言えよ」
     つるんとした紺色のつむじをぐしゃぐしゃにかき混ぜると、「ふんぐ」なんて変な声を漏らしてゆっくりと顔をこちらに向けた。……赤い。
    「……お前、そんな時から僕のこと好きだったんだな……全然、気付かなかった……」
    「……」
     あー……。や、ばい。調子に乗ってうっかりべらべら口を滑らせてしまった。小っ恥ずかしい。こういう空気になるって、想像がついたはずなのに。好きになったとき、なんて聞くからだ。……あ? 好き、に?
    「おい」
    「ん?」
    「なんで、いつから好きだった、なんて知りたくなったんだよ。それ、言えよ」
    「え〜っと……」
     すっかり忘れていたかのように、得意のきょとんとした顔で明後日の方向に目線を泳がせる。
    「……なんとなく……」
    「いやいや。ぜってー理由あんだろ、その顔。そんな答えで納得できると思ってんの? オレに散々しゃべらせておいて、そりゃないでしょ」
     好き勝手に話したのは自分なのに、我ながらなんて言い草だ、とは思ったけれど、こいつには効き目がある。
    「えぇ……」
     もじもじする身体を仰向けに転がし、手首を掴み、ゆっくりと額を近づけ、スリ、と擦り付ける。デュースはとことん弱いんだよね、コレ。
    「いや、別に……」
     それでも言いたくなさそうに下唇をきゅっと噛み、目をウロつかせている。どんな面白いこと言ってくれんのか、ちょっとだけワクワクする。つまんねーこと言うなよ。
    「言えって」
    「あ、ぅ……」
     抗うようによじらせた上半身に、拒否権を奪うにぐっと体重をかける。
     言うほど嫌がってはいない。頼りない抵抗だった。じきに口を割るだろう。大体にして、こいつが本気を出せばオレなんか簡単に投げ飛ばしてしまえる。それが、オレの良く知るデュースだ。

    「……今日、お前、妙に優しかったから」
    「へ」
     割った口からは想像もしない言葉が飛び出た。や、優しい?
    「……だからか、……なんか、いつもより、凄く、よ、良くて。お前と付き合えて良かった、と思った。……だが、エースが僕を好きだと言ってくれなかったら、そもそも始まらなかったと思ってな。……そうしたら、いつ僕のことをそう思ったのか、どうしても、知りたくなった」
     赤い顔をぐっ、と横に反らし、「……これで、いいか」と拗ねたようにつぶやいた。
    「……へえ」
     辿々しく紡ぎ出された「理由」は特に面白くはなかった。適当に誤魔化さず「付き合えて良かった」なんて言えるの、お前らしいな、とは思うけれど。
     それに。別に優しくしたつもりはない。デュースがして欲しいこと、したいことが、オレとぴったりと一致したような気がして、その感覚のまま動いただけで、意識はしていなかった。
    「……お前も、相当オレのこと、好きなのね」
    「う、るせっ、もういいだろ!」
     気に入らなかったらしい。デュースは本気で嫌がり始めた。すかさず手首を放し、手のひらを重ねて握り締めると、ふっ、と抗う力が緩んだ。その隙にデュースの耳元に唇を寄せ、うんと小さな声で囁いてやった。

    「すき」

    「……え!?」
     ぼん、と音がしそう程より一層顔を赤くして口をぱくぱくさせた。はは、たった2文字でここまでおもしれー反応するの、悪くねーな。出し惜しみをしたわけではないけれど、まるで伝家の宝刀だ。
    「おい、僕も、って言えよ」
    「だっ、誰が! ふっ、ざけんな!」
     ぽわぽわに赤らめた顔で、足をじたばたさせる。オレとは違ってデュースの方は案外好きという言葉に抵抗がない。それでも、揶揄うとこれだ。ま、こーいうノリも嫌いじゃないけど。
     足グセの悪さを発揮する太ももを撫で、そろりと身体の真ん中に手を滑らせると、デュースはぴたりと動きを止めた。
     視線が合う。覆い被さるオレの下半身に目をやり、呆れたように小さく笑ってから、ゆっくりと目を閉じた。

     ……再戦は、最初から変な空気だった。
     さっきは一切口にしなかったその言葉を、身体を開ききったデュースは惜しむことなく口にした。ふざけんな、なんて言ってた口はどこへやら、大盤振る舞いだった。つられたようにオレも、色々口走った……ような……気がする。
     ハチミツの中を泳ぐどころじゃなくて、まるで溺れるかのように、乞われるがまま、オレはデュースの中に沈み込んでいった。
     甘い言葉を囁き合うなんて薄ら寒いことコイツとできっかよ、なんて思っていたけれど、脳みそまで溶けそうな程盛り上がった。


    「おい!起きろ」
    「う、あ」
     頭まで被っていた毛布を乱暴に剥がれて頭が覚醒した。まぶしい。
    「部活があるんだろ、早くシャワーに行け」
     いつものようにゆらゆらと肩を揺すられる。思わず身体を丸めると、腕を掴んで無理やり起こされた。
    「眠い……」
     いつの間にか起きてひとっ走りして来たらしい。昨晩、あれだけどろどろに溶け切らせた身体は、元に戻るのに相当時間がかかるだろう、と思って眠りについたのに、信じられない。何この、スタミナ? 足だけじゃなくてケツまで鍛え上げてんのかよ、て感じ。今や抱き潰されているのはどっちなんだか。
     相変わらずこいつは寝起きがいい。良過ぎてオレは毎回取り残され、文字通り叩き起こされるのが常だ。
     石けんのいい匂いがする腰に抱きつこうとすると、額に手を置いて引き離された。
    「うぐ」
    「いい加減にしろ。今から洗濯しないと間に合わないぞ。僕は監督生の部屋にシーツを取りに行くから、お前はここのシーツを持ってランドリーに来い。頼むぞ」
    「ふぁ……。ん、分かった……」
     泊まった日の朝はいつも部屋中の洗濯物を片付けてから帰ることにしているのだけれど。
     ドアの閉まる音を聞き届けてから、シーツの上に沈み込み、毛布を胸に手繰り寄せて瞼を閉じる。
     なんなの、あいつ。全然、甘くない。昨晩のハチミツなんて一滴だって残ってやしないんじゃねーの。オハヨ、ちゅっ、なんて朝、あった……か……なぁ? てなくらい記憶に遠い。ひとつになって、片割れとまで思えたコイビトは、12時を過ぎて魔法が解けたみたいに、いつものスカしたルームメイトに戻っていた。
     ……でも。ふわふわとしたマシュマロみたいに柔らかい気持ちが胸をくすぐる。
     昨日の予習を今日する不器用なお前も、オレの首根っこ掴んでサボりを許さないお前も、余計なことに首を突っ込んで収集つかずにテンパるところも、人を巻き込んで振り回すところも、オレを容赦なく叩き起こす優しくない手のひらも、……そして。
     好きになって良かった、なんてかわいいことを辿々しく伝える唇も。
     ……全部、好きだなぁ、って思える。
     やべーな。オレ、寝ても覚めても溺れてんの? だっせーの。
     ……でも、まぁ、あいつも似たようなもんだろ。オレに溺れてなきゃあんなに……、

     階段をぎっしぎっしとわざとらしく音を立てて踏みしめる足音がドアの外から漏れ聞こえる。
    「ぷふッ」
     戻って来ると思った。目を三角にして怒るコイビトを想像したら笑いが込み上げて来た。そろそろ起きなきゃ、まじでキレるに違いない。いや、もうキレてんだろうな。
     欠伸をひとつしてから、寝そべったままくん、と伸びをする。
     でもさ、デュースくん。ちゅーのひとつでもしてくれてもいいんじゃね? お姫様はいつだってソレで起きるもんだろ。
     頬を膨らませたオレの王子様を想像したら、腹が捩れそうになったけれど、目を瞑ってキスを待ってみることにした。

     ……まさか、その王子様がお供にタヌキ、じゃなくてグリムを連れて戻って来るなんてとんでもない展開、想像もしなかったけれど。オレを目覚めさせてくれたのは熱いキッスじゃなくて毛むくじゃらの熱い肉球で、這いつくばりそうな勢いで腹を捩らせたのはデュースの方だった。
     この野郎……、ふざけんな、覚えてろよ!!
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    Replies from the creator

    尚 道

    DONEエスデュWEBオンリー開催おめでとうございます~!
    今回も小説と漫画を書きました。少しでも賑やかしになれば嬉しいです!

    ・エースがデュースを好きになったきっかけをベッドでだらだら話すお話です。
    ・R指定な描写はありませんが、全部ピロートークなのでご注意ください。
    いつから、だなんて「……こういうことを聞くのは、嫌がるかもしれないのだが」
    「…………うん?」

     いつものオンボロ寮の一室で、どこか湿り気を帯びた空気の中、全裸のまま仰向けに寝そべるデュースは、妙な前置きをして話し始めた。
     情事の余韻を楽しむように擦り合わせていた指先から、躊躇いが伝わってくる。


     オレたちにとっては、……いや、少なくともオレにとっては、デュースとのセックスは少しスポーツに似ていた。開始時のテンションに応じて、いきなり全力を出したり、相手の出方を見ながら慎重に進めたり。お互いの欲望っていうボールをぽこん、ぽこん、と投げ合うような。そういう時の事後は、甘い空気というより爽快感の方が強い。まるで一勝負終えたかのように、キスのひとつもせず、とっとと片付けて服を着て、「じゃあ寝るか!」って感じですぐに眠りにつく。酷い時は背中合わせでぐーすか寝たりする。
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