二十五日の朝バルナバスの寝起きは悪い。おまけに今日は日付が悪かった。
「なあ、機嫌直してくれって」
「眠いだけだ」
そう言って寝直そうとする彼の手には有名ブランドの箱……たぶん時計か何かが入っていると思われるのものが握りしめられていた。
「最近忙しくて日付の感覚が無かったんだ。昨日は帰ってきたときお前はいなかったし、そのまま寝ていても仕方がないだろ?」
イベントを楽しみにしていた子供を宥めるような気持ちでクライヴは弁解する。
実際、バルナバスはかなり念を入れて準備をしていた。元々まめまめしい男である。夕食のレストランも、ドライブコースも、その後のホテルも全て揃っていた。予習さえしていたほどである。ところが、肝心の相手は当日家で健やかな寝息を立てていた。
年末進行でクライヴの忙しさに輪がかかっているとわかっていても、バルナバスは自分との時間が仕事上の誰かや何かに取られているのは気に食わない。クライヴから母のように肩をさすられると、余計に子供染みた感情に飲まれてしまう。
「プレゼントも、どうせ無いんだろう?」
「う、うん。本当にすまない」
背を向けて寝たままプレゼントの箱をクライヴに向けると、彼は困ったように手を宙に浮かせた。
「顔は見せてくれないのか?」
「眠い」
こうなったらバルナバスは梃子でも動かないのが、今まで一緒に暮らしてきて、クライヴにはよくわかっている。
何か彼の機嫌を良くするような物は無いかと見回し、少し悩みながらサイドボードに手を伸ばした。
「バルナバス」
「なんだ」
「あ、あの。メリークリスマス。お前が良い子にしてたから、プレゼントをあげるぞ」
怪訝な顔をして寝たままバルナバスが振り向くと、そこには豊かな胸筋の谷間にコンドームを挟んで、照れながら身を乗り出して見せるクライヴがいた。
呆気に取られたバルナバスの手から、プレゼントの包装紙に皺が寄った音がする。失敗したか、と思い、クライヴは居た堪れなくなった。彼は上気する顔を抑えられないまま、この我儘で子供っぽい年上の彼氏の反応を待つ。
「……なるほどな」
「ごめん、流石にこんな事で誤魔化そうなんて最低だよな」
「誰もそんな事は言っていない」
身を起こしたバルナバスは、握ったままだった箱をクライヴに改めて向ける。
「クリスマスプレゼントだ」
「あ、ありがとう。バルナバス」
クライヴが手を伸ばしかけると、バルナバスはその腕を引き自分の方に抱き寄せた。クライヴの照れて汗ばんだ肌が、熱く吸い付くようで心地が良い。
「その、ごめんな。あんたのことだから、色々手配してくれただろうに」
「構わん。それよりもやっとプレゼントが手に入った。これから一年大事に扱わねばな」
「えっ? 待ってくれ。これは、」
不穏な手つきにクライヴの身は固まる。交換したプレゼントの効果は、思ったよりもバルナバスに効いていたようだ。
「早速『遊ばせて』もらうぞクライヴ」
次のクリスマスまで、何かとこの事を蒸し返され『遊ばれた』クライヴは、十二月の予定をびっしりと組むようになったという。