0:02ポン、とメッセージアプリが着信音をならしたせいで目が覚めた。
「ん……?」
人見祐希は伏せていた瞳を少しだけ持ち上げる。もう少しで入るところだったのに、柔らかくて暖かい夢の中へ。
着信を告げたスマートフォンは、サイドテーブルの上に置きっぱなしだ。手を伸ばせば届かないことはないけれど、せっかく心地よくなってきた布団の中から手を伸ばすのはどうにも気だるい。
どうせ急ぎの用件じゃない。何なら企業の広告メッセージかもしれない。
そんな物のために、この心地よい微睡みを手放すのは忍びない。春から始めた運動部に、ようやく身体が慣れてきたのだ。それでも毎日の練習は厳しくて、今日もお風呂で寝落ちかけたのだ。明日も練習が待っている。自分で選んだ、厳しい練習が。
だから人見は、寝ることにした。本当に急ぎの用事なら、電話で来るはずなのだもの。
小さなあくびをほろりとこぼして、首まで布団を引き上げる。
お休み、昨日の僕。そう思ってまた目を閉じたところで。
ポン、ポン、ポン、ポポポポ、ポン。
「ひぃっ!」
メッセージの着信がけたたましく続く。一つや二つじゃない、三つも四つも五つも六つも!
「な、な、な、何!?」
さすがに見過ごすわけには行かない。人見はあわてて布団から抜け出すと、テーブルの上でぴかぴか光るスマートフォンに手を伸ばす。
「怖い連絡だったらどうしよう……」
だってこんな、日付が変わったような時間にバカみたいにメッセージが飛んでくるなんて。
おそるおそるロックを解除し、見たことがないくらい未読のバッジが付いたアプリを立ち上げる。
「……え?」
『人見くん、お誕生日おめでとう!』
『人見、誕生日おめでとう』
『Happy Birthday人見ちゃん!』
『誕生日おめでとう、人見』
『ひとみーーーーーー!!! お誕生日おめでとう! これで人見も十六歳だな!』
『人見くん、お誕生日おめでとう。人見くんにとって素晴らしい一年になりますように』
『人見、いつもありがとう。誕生日おめでとう』
部活のグループに次々と投稿されたメッセージ。ハッとカレンダーを見て、それからスマホのカレンダーでもう一度確認。
日付が変わって、九月二十一日。
人見の、誕生日だ。
「すっかり忘れてたあ……!」
部活に入って、合宿をして、試合があって、それから、初めて出場して。
なんだか毎日が目まぐるしくて、日付なんかすっかり忘れていた。
「先輩……みんな……」
涙が出そう。
もちろん、嬉しくてだ。
届いたメッセージも個性が豊かだ。
ケーキの写真が添えられている王城部長。
短くてすっきりした文面の井浦副部長。
明るいメッセージに可愛いスタンプが添えられた水澄先輩。
なぜかプロテインの写真が一緒に送られてきた伊達先輩。
あの明るい声が聞こえてきそうな畦道くん。
こんな時も彼らしい関くん。
メッセージのフォントは小さくないんだなんて思っちゃった伴くん。
それから。
ポン、と遅れて通知が浮かぶ。
『おめ』
「あはは、宵越くんは、宵越くんだなあ」
ひねくれ者の同級生から飛んできた二文字に、うれし涙が笑いに変わる。
一粒だけこぼれた涙を指で拭って、その指を画面に滑らせる。
『先輩、みんな、ありがとう。十六歳の僕も、よろしくね』