グラスの中の緑の空に浮かぶ赤い月をながめながらゾルタンは考えていた。
ゾルタンは今、近所の商店街にある小さな洋食屋で昼食をとりに来ている。店主の趣味全開のごちゃついた装飾に、値段設定がおかしいメニューが並んでいる個性的なお店だ。
外観は一見入りづらい雰囲気なのだが、メニューのラインナップに惹かれて思い切って挑戦してみたところ案外居心地が良かったので、それ以来週末の昼はここで過ごすようになった。
今日は何を食べようかな、と少し浮き足立った気持ちを抑えつつ店に入ると、「あらいらっしゃい!今日のオススメはメンチカツとエビフライ定食よ」と出迎えてくれた店主が教えてくれた。
「ふーん。じゃあそれで。セットの飲み物はこれで」
「メロンソーダね、あいよ!」
店主はメモをサッと取ると早足で厨房へ戻っていった。
定食が出てくるまで時間はそんなにかからないことを知っているゾルタンは、来週は何を頼もうか考えようと一旦仕舞われたメニューに手を伸ばした。
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ケーキセットもいつか頼んでみたいんだよなぁ、なんてメニューの写真を凝視していたら「おまたせしましたー」と頭上から声が聞こえた。頼んだ定食が並べられる。
「はい、メンチカツとエビフライの定食とメロンソーダ!伝票はここに置いとくね」
「あぁ」
「ごゆっくり〜」
目の前には大きめのプレートに、それを横断するほど長いエビフライとこぶし1個分の大きさのメンチカツが乗っており、一緒にタルタルソースとキャベツが添えられている。横にはお味噌汁とご飯と、メロンソーダ。
変な組み合わせ、と心の中で笑いながら箸を取った。
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定食をぺろりと完食し、それまでわざと手を付けなかったメロンソーダを目の前に移動させる。
長細いグラスに注がれたメロンソーダの中に、真っ赤なさくらんぼがひとつ沈んでいる。
まるで…そう、あの国旗みたいだ。なんだっけ、思い出せない。
スマホを出してその場で「緑地 赤い丸 国旗」と打つ。
「バングラデシュ…」
国の名前がわかって大変満足したゾルタンは、ストローに口を近づけると勢いよく緑の海を吸い込み始めたのだった。