戦場の神様たぶん好ましく思っていた。理性的で、人間らしくて、深い憎悪をたぎらせたそのひとを。というより、親近感を覚えていたのだ。だってみな、彼女を環境によって育まれた化け物のように呼ぶから。
“悪魔”と対峙したミーシィヤさんは、確かにあの場において唯一、人民を守る神だった。
でも、横たわり息も絶え絶えにわたしを見るこの人は既にただのか弱い人間だった。守るべきもの。屠るべきもの。その線引きが人より曖昧な自覚はどうにもあって、だからこそわたしは英雄なんて化け物をやっている。そのための力があったからそこに立ち、自分の想いに沿ってふるうこと。彼女とわたしに違いはない。戦場に切実なこころを抱いているかいないかの違いはあれど。
だから白銀の瞳がとどめを乞うのに、抵抗なんてなかったのだ。彼女が彼女であるうちに。ヒトがヒトであるうちに。背負っているつもりなど毛頭なくって、あんまりひどい自分のエゴに渇いた笑いさえ喉元までせりあがっていた。救いだと思った。人のみに余る大きな力を、運命を抱えなくてはならない――逃げられない人にとって。死とは、ひとつの。
結局。結局その安息はわたしの手によって齎されることはなかったけれど、――わたしはお互いの手で縁を、命を絶つ彼らの間に割りいらずにいてよかったのか、少しだけ、考える。ひとのいのちは重いから。
血に塗れた戦場の帰りばかりは、誰かに暖かに迎え入れられるのだって気が引ける。けれどそれは今更すぎる人殺しへの引け目ではなくて、きっとただ線を引きたいだけなのだ。誰かの命を慮るわたしと、誰かの命を躊躇なく屠るわたしの。英雄は兵器である。わたしがそう定義していることなんて、誰にも語らなくていい話だ。いままでも、これからも、それだけのこと、なのだ。