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    botabota_mocchi

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    付き合ってるラハ光♀がお喋りをしているだけ

    ##ラハ光

    日進月歩の恋を知る曰く、少女の夢。運命の人、白馬に乗った王子様。心の小箱に大事に大事に仕舞われるいっとう綺麗な宝石のようなもの。こぞって口の端に乗せられる初恋というのは、そういうものらしい。恋の一つも知らない根無草の冒険者には、縁のない話であった。英雄だなんて大きな肩書きを得ては、尚更。はて、では、この話を聞いたのは誰からだったか。きっとクリスタリウムの幼い女の子たちが花冠を編むのに付き合っていた時のことだったような気がする。
    「闇の戦士さまの初恋はどんな人だった? 公くらい素敵な人?」
    そんなふうに目を輝かせたエルフ族の少女の声が鮮明に思い出される。思い出して、しまった。眼前に聳える美しいクリスタルの彫像――ついさっきまで確かに命が宿っていた――を仰いでいる、今。
    まさか。――ああ、まさか、彼女たちの謳う美しい宝石が、こんな後悔と自責に塗れたものであるはずがないのに。心の小箱が本当にあるのなら、その日私は、その場所でたしかに錠をかけたのだ。手中の魂を胸に抱いて、ここに立つ彼の手に、交換ね、と預けたわけだ。仲間の魂、すなわち命で私の両手はいっぱいで、世界の壁を渡るのに、重たい荷物が多すぎたから。
    冒険は続いていく。どこまでだって。身軽なからだにこの形容し難い心は不釣り合いだったのだ。

    訥々と。そう語った。あなたへの想いが今、恋と呼ばれるものならば。きっと始まりはあの瞬間だと。それが私の初恋なのだろうと。私にとってはたったそれだけの話だったが、彼にとっては違うらしい。
    「それはつまり……オレは『水晶公』にあんたの初恋を取られたってことになるわけか?」
    「あなたが『オレはオレだ』って言ったんでしょうに……」
    「いや、あのなぁ、それとこれとは……違わない、ような気もするが……だって他でもないあんたが別枠扱いしたんだろ!」
    「いや、だって、なんか……失礼ではないですか。水晶公に対して……。今の私の感情が、そのまま水晶公と話していた頃から育ってきたものだとするなら」
    だってあの人が抱えていたのは、数えきれないほどの人の祈りと、輝かしい物語への憧憬と、親しい人を愛おしむ気持ちと、少年のような思慕だった。だから少なからず引け目があった。あの人に恋焦がれたと少しでも認めることに。なんだかとても不義理な気がして。彼の信頼を損ねることのような気がして。
    ラハは呆気に取られた顔をしている。こちらの言葉を反芻して、喉奥に引っかかった想いをなんとか言葉にしようと後ろ髪をくしゃくしゃと引っ掻いた。
     「本気で言っているのか。オレが、あんたに対するお綺麗な感情だけを百年以上も拗らせていられるようなやつだって」
    「違うんですか」
    「オレは聖人でも神様でもないんだ。長い年月があんたという英雄に縋る気持ちを燻らせたことは否定しない。でも、……――それでも、オレにとってあんたはいつだって、オレの思い出の中でいっとう輝いてるだけの、人間なんだ」
    それは初耳だと思ったのがどうやら顔に出ていたらしい。不服そうに抱き上げられて、ソファの上、後ろから抱きすくめられる。言われてみれば、神聖な物語のように扱うわりに、その道中に傷のつく私を随分気にかけていたように思う。私が思うよりもこの人は、私のことを人間として大切にしてくれている。
    「気安い会話も、与えられた心遣いだって。ただのオレの心の中に、あんたの形で残ってる。あんたはオレの憧れをまるで触れられない美しいものみたいに語るけど、あんたが思うほど、オレの視線は綺麗じゃない」
    水晶公のものだって、そうだ。じろり。顔の見えない体勢に持ち込んでおきながら、雄弁な視線が後頭部に突き刺さる。
    「どうしようもなく焦がれたさ。あんたという人への好意、憧憬、思い出への回顧も、下心だって……。全部抱えて生きてきた。だから。だからこそだ。こんなに募りすぎた想いを、恋だなんて可愛らしく呼べないよ。あんたが……水晶公はあんたに恋をしなさそうだと思ったなら、きっと、ただそれだけのことだよ」
    「なんか……あんまりよく、わからないんですけど」
    「おい」
    「水晶公もラハくんもわたしのことを愛してたってことですか?」
    「……愛してるってことだよ!」
    なんで今更そこを確認してくるんだと強く抱きしめられる。こればかりはあなたの言葉が回りくどいからですよおじいちゃん、とこちらにだって言い分があるが、飲み込むくらいには多少大人なつもりだった。
    「その割に、匂わせもしませんでしたよね。下心とか、欲目とか」
    「……あなたにバレていなかったなら重畳だが」
    「わたしは結構……人に捕まえられるのが苦手な、根無草なんですが。そこを慮ってくれたんですか」
    「そうだったら幾分か綺麗な理由だな。けど、どちらかというと……オレの方に根付いた弱気が理由だよ」
    自由に。健やかに。幸せに。私に対してそんなことばかり願うこの人があんまり苦しげに声を出すから、拘束を解いて膝の上で向き合った。
    「だってあんたを困らせるだろう。世界を跨いでまでたった一人を渇望して、あなたのためなら命だって惜しくない男の、感情すべて受け止めろだなんて……」
    「……それだけ?」
    「それだけ」
    「相変わらずわがままの下手なことで」
    吹き出して笑うと、沈んだ顔が一瞬にして赤らむのだから愉快なことこの上なかった。それだけだ。だってもう受け止めてしまった。あんまり私が笑うものだから、子どものよう頬を膨らませたラハが再び腕に力を込める。抱きすくめられたままごろりと転がって、大きな体に押し潰される。
    「ラハくん? 苦しいんですけど」
    「今日はこれで寝る」
    「ええ……ベッドには運んでくださいね」
    「……このまま?」
    「あなたが言ったんでしょう。抵抗して欲しかったんですか」
    「いや……受け止めてくれ、愛の重みだから」
    ラハくんの体重ぽっちなんですか、と言ったら、英雄殿は器が大きすぎると悔しげに漏らされた。やはり私は、笑った。





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