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    botabota_mocchi

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    botabota_mocchi

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    モブ視点探索者シリーズ(ねね)
    特に何のネタバレもなし。

    覚えのない二発「げぇっ、委員長!」
    「人の顔を見て悲鳴をあげるな!無礼者!」
     武士かよ。もしくは女騎士かよ。
     こんな時代錯誤な物言いをする人間が同じクラスにいるというのが不思議だ。人呼んで学級委員長の擬人化、野々原ねね。お堅く生真面目、四角四面。性格の通り切り揃えられたぱっつん髪に、シワひとつないスカーフと靴下。校則通りの膝下スカート。武道をやっているとかでいやに背筋の伸びた歩き姿は、揺れるプリーツさえ整然として見えるのだから、お育ちとは所作に出るものだ。高校に入学したばかりで、誰も委員会になんか入ってない頃から、誰からともなく『委員長』と呼んだ。もちろんその後学級委員長にも本当になった。それで、箱を開けてみたら案外勉強ができなくてクラス全員で飛び上がって驚いたものだ──彼女の名誉のために補足すると、学年全体で中の上くらいだ──隣の席の俺が勝手に成績表を覗き込んで驚嘆の声を上げたせいでクラス中に周知されたのばかりは申し訳なかったと思っている。野々原は怒らなかった。いや無断で覗き込んだことは行儀が悪いと叱った。あとついでに真面目なだけで思いの外ガリ勉でもないらしい。休み時間はよくわからない縫い物や編み物をして女子に囲まれているので。
    「三日待って三日!」
    「言っておくが提出締切は昨日だ。一緒に謝ってやるから職員室に行くぞ」
    「やだ〜!委員長が怒られてきてよ〜!」
    「道理が通ってないだろう!」
     男子生徒の首根っこを掴み教室をずんずんと出ていく文武そこそこ両道の委員長の背中を見送る。シンプルに面倒見がいい。体調不良で休めば几帳面なノートのコピーをくれるし、教科書を忘れたといえば机をくっつけてくれる。明らかにお堅すぎるが、個性的なクラスの中では案外平然と受け入れられていた。あんだけ真面目だと休みの日とか何してんだろう。坐禅かな。坐禅組んで微動だにしてなかったら面白いのに。私服めっちゃ地味そう──などと、コーヒーのストローを噛みながら考える。あいつが提出物をほっぽってなければ、今この瞬間も「行儀が悪いぞ」と俺が注意を受けていただろう。そのくらい生真面目な人間のことを、当然よく思わないヤツはいるわけで。
    「次サボんぞ」
     俺のよく連んでるダチとか。

     連れ立って校舎裏で授業時間を潰すのは、割とよくあることだ。大体三人で。ただダラついているだけの時も、ゲームを持ち込んでいる時も、早弁してる時もある。別に授業は嫌いじゃないが──俺は、という話であって、他二人は多分本気で嫌いだ──こういうなんでもない時間も悪くないものだ。規則を守らないという甘美さはどうしてもあることだし。
     当然ゲームの持ち込みなんかが教師にバレれば大目玉だが、わざわざ授業を潰して不良生徒を探しに来る教師はいない。件の委員長だって、本人が真面目に授業に出席するのだから休み時間しか探しにこない。野々原は異様に足が速く力が強く熱心であるので、専ら俺たちがサボる際の1番の障害である。フケる直前に捕まって移動教室まで引きずられたこと、数度。情けない話だ。そしてこいつらはそれを、相当、根に持っている。

    「マジでムカつくアイツ、教師より小うるせえし」
    「偉そうだしよ。マワしたら黙らんかな」
    「おっまえひっで〜!」
    「や〜でもアレにチンコ勃たね〜、押し倒しても説教してくんじゃん」
    「おっぱいねえし」
    「でもおちんちん様に負けてるとこは滑稽そうでいいなァ!」
     ぎゃはは、と下卑た笑い声が届いて、次の瞬間ダチだったものは地面に叩きつけられていた。戸惑ったようなもう一人の声が耳に届いて、自分の拳がダチを殴りつけたことに気がついた。
    「お、おい、何してんだよ急に。怒ってんの?」
    「テメーなにしやがる!」
     胸ぐらを掴まれ、自分が何にそんなにキレてるのか全くわからないまま揺さぶられる。黙りこくったままただただ固まった表情筋は野々原に乱暴してやろうか、などと言い出したダチを睨んでいて──ああ、
    「……ンだよまさかお前、あの学級委員長様に──」
    「野々原は!」
     至近距離で腹から声を出したことで気おされたようにのけぞった。大きな声。校舎裏に響き渡るくらいの。すなわち、授業をフケていた俺たちを移動教室ついでに探しに来る生真面目な生徒なんかが何事かと寄ってくるくらいの。
    「ちょっと、三人とも──」
    「おちんちんなんかに負けねェ!!!」
    「なんて?」
    「あんま舐めたこと言ってるとタマ潰すぞ!
    「待て待て怖いし何?」
    「頭一個はデケェ男に口でも暴力で勝とうと向かってくる女だぞ……!ちんこ如きに負けてんじゃねえよ……!」
    「解釈の話?」
    「そういやお前腕相撲挑んで負けてたな」
    「うるせえな!野々原は押し倒した瞬間金的で勝つから!」
    「あっえっ?私の話?」
    「実は……」
    「残念ながら……」
     眉をキリリと吊り上げて不良生徒を説教しに来た野々原はすっかり困ったように眉を下げていた。ブン殴られてキレていたダチも状況を飲み込めずにいたダチも、もはや縋るように野々原を見ている。
    「委員長!助けて!」
    「助けて欲しいの私じゃないか!?これ」
     何が起きている!と大声をあげる野々原にズカズカと詰め寄ると、びくりと肩を震わせて俺を見上げる。が、一歩も引かないし逃げ出す様子もない。これだ、やはりこれだ。
    「野々原はくっ殺女騎士じゃないよな!?」
    「わけのわからんことを言うな!」
    「えっちな目になんか合わないし不本意エロで快楽落ちもしない……!」
    「なに、なん、はあ!?ふざけるな、よくわからんがセクハラだろう、叩っ切るぞ!」
    「ちんこを!?」
    「えっ!?う、うん……!?」
    「ほらぁ!野々原はちんこよりつえーよ!」
    「何がほらか説明しろ!」
    「俺たちに言われても……」
    「帰っていい?」
    「帰るな!この異常空間に私を置いていくな馬鹿者共が!」
    「あと絶対婚前交渉なんか許さないし、絶対処女だし、初夜までちんこなんか見たことないよな!?」
    「おいやめとけ俺らが言うのもなんだけど本当にダメだって」
    「えっいやおちん……ちんは見たことあるけど……」
    「言わんでいい!ごめん委員長、ほんとごめん、俺らが悪かった」
    「は!?父親か!?父親のだよな!?」
    「ねえ怖いよ何がお前をそこまで駆り立てるの!?」
     一歩、二歩と迫るのを両サイドでダチが引き止めようとする。無視してずいと顔を寄せると、さすがに一歩後ずさった。けれども気の強そうな吊り目はこちらをまっすぐ向いたままだ。
    「野々原は!オナニーだってしたことないはずだろ!!!」
    「貴様本当にふざけるなよ!!!」
     顎にアッパーが入り意識が飛ぶ。俺の記憶はそこで終わっている。
     後日聞いた話、ダチによって保健室に担ぎ込まれた俺があの優等生の暴力によって沈んでいる点についてもちろん教師にばれ、あわや喧嘩として処分されるところだったらしい。野々原はすっかりしおらしく罰を受けようとしていたので、俺が眠っている間にダチ二人がそれはもう熱心に教師を説得したという。俺がどんな問題発言をして、野々原が止むを得ず殴ったかについて。なんというか、ギリ、学生同士のじゃれ合いという話に落ち着いたという。お互いの親に連絡はいった。俺は母親からたんこぶができる強さで殴られた。
    「三発殴って水に流した委員長は優しい」
     すっかり従順になったダチ共の弁であった。
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