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    センリ°F

    メディア欄整理のためのプラス用格納庫。ぷらいべったー以外のサブのシリーズものを置いています。

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    センリ°F

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    現パロ🃏💋🐯宅の居候猫こと🌸
    *🃏お誕生日おめでとう
    *💋はお休み

    -🃏相手プラスだけど逆ハー気味
    -🐯は🃏💋宅の同居人
    -🃏がある日🌸を拾ってきた
    -恋人というよりもほぼペット扱い
    -ゆるいシリーズ

    ##同居人シリーズ

    朝焼けの話あかく染まる秋空へ、めいっぱい若葉の手を伸ばす子たちの声がする。ぶらんこが揺れる音がする。葉が落ちるまえのさいごの木々が、ざわめく音がする。
    「今日、アイツは帰ってこねェぞ」
    「ウン」
    ローは夕方になっても窓辺で空を見つめている猫の、秋風でもつれた髪を撫でた。昨日からぐっと寒くなったというのに窓を開け放っているから、頬が冷たい。にも関わらずメロンソーダにバニラアイスを浮かべる天邪鬼に、ホットのカフェモカを淹れてやったのだ。
    ドフラミンゴは朝早く家を出て行った。今日は忙しいんだ、とかそんな免罪符を口にして。
    “家族”の誕生日はどこまでも豪勢に祝うくせに、自分の当日は家の中からすっかり消えてしまうのは昔からだ。
    それを知らないこの居候は、誰もいないベッドで目を覚まし、そのくせ「どうして?」などとも言わず、どこへも行かずにリビングでおとなしくしている。
    ローに言わせれば、こんな関係はいつか破綻する。人間の女をひとり囲って、傍に置いておいて、永遠にこのままだなんてあり得ない。いつか終わりが来る。それは予感ではなく確信であった。それを、あのドフラミンゴが解っていないはずがない。
    「窓閉めろ。寒いだろ」
    「ウン」
    「…閉める気がねェならもっと厚着しろ」
    風邪引くぞ、と頬を撫でるタトゥーだらけの指も冷たい。
    猫は夜に染まりゆく空を見つめながら、やはり「ウン」とだけ答える。一見従順ないきものだが、結局のところ、ドフラミンゴの言うことしか聞かないのだ。
    「帰ってくるまでここにいる気じゃねェだろうな」
    「ウン」
    適当に返事をしているわけではないとわかるから、ローは頭を痛めた。ふざけやがって、なんで俺がこいつらに振り回されなきゃならねェ。
    舌打ちのあと、長い指をひらいた大きな手のひらが猫の頭を包み込んだ。ぬくもりが背中に当たる。カフェモカよりすこしだけあつい体温。香水のかおり。
    「ローくん…?」
    猫を後ろから抱き込んで、ローはつむじに唇を寄せた。甘いぬくみに、胸の奥がじんとする。これが何か、アイツは知っているんだ。
    「なら窓は閉めろ。良い子だから」
    「……うん」
    どこかで聞いた物言いに、つまり滅多に聞くことのできない懇願の声に、猫は静かに返事をした。
    腕の中に閉じ込められたまま、目の前の窓が閉められる。夕焼けを閉め出して、あたたかいリビングへ連れ戻される。外はまだすこし明るいのに。
    『頼むから、心配かけるんじゃねェ』
    喉の奥から出かけた言葉を飲み込んだ男は、腕の中に閉じ込められてもなお、心ここに在らずの生き物を抱き締めて、そっと瞳を閉じた。

    +++

    くたくたになったスーツとネクタイと、しんなりした襟足で帰宅した男は、さすがにらんちき騒ぎが過ぎたなと自嘲した。喉が枯れていないだけ及第点だ。明日は──いやもう今日だが、バースデー休暇という名の有給を取らされた。いや、おまえたちがオールで騒がなければ出社できたんだが。
    暗い廊下を抜け、暗いリビングのドアを開ける。キッチンは冷蔵庫の音だけがしていたが、リビングはエアコンが動いているらしい。
    またロシナンテあたりが消し忘れたか?とリモコンを探そうとすると、ソファの上にちんまりとブランケットのふくらみがある。
    「…オイオイ」
    まさかな、と息を呑むも、ウサギ柄のそれをそっと引き剥がすと、予想が当たる。
    さなぎのように羽化を待つ、美しいいきもの。
    ひとりきりのベッドが嫌いなのを知りながら、今朝は置き去りにしてしまった。
    「…おまえには、悪いことをした」
    ソファでもぐっすり、仔猫のように眠れる平和ないきもの。起こすのはかわいそうだと、わかっていても、早くその瞳を開いてほしくて、その声で呼んでほしくて、男はまるい額を撫でて髪を梳く。
    暖かな体温。昼間の熱を残してかがやく星。ずっと待っていたかのように、すぐにふわりとひらく瞼。
    ドフラミンゴは、待ちきれずに額へキスをした。
    「…いま帰った」
    茶色い瞳は2回瞬きを。すぐにきらめいて、愛しい者を映してひかる。
    「ドフィさん、お誕生日おめでとう」
    「…ああ」
    おかえり、のかわりの言葉がくすぐったい。ずっと自分を待っていたことがわかるからだ。本当に、悪いことをしちまった。
    猫が腕を伸ばしてくるまえに、ブランケットごとソファからすくいあげる。酒とタバコと香水の混じった身体で抱き締める。待ち侘びていたのは、男も同じであった。
    猫は主人のにおいに安心して微笑んだが、すん、と首を伸ばすとカーテンの向こうを指さした。
    「あ、窓」
    「窓?」
    隙間から光が漏れていた。ちかちかと星屑のようにひかるそれに目を細めながら、ドフラミンゴはそっとカーテンを開けた。
    結露のむこう、しろく冷える街並みを包むように、朝がやってきていた。
    「ドフィさんは朝焼けのいろ」
    腕の中で猫が囁いて、しろい指をそっとサングラスへ伸ばした。
    クリアになった視界に、朝のいろは眩しい。ドフラミンゴは目をいっそう細めながら、濡れ硝子を指先でなぞった。水滴にきらきらと反射して、透明なオレンジが散らばった。
    「だから、ずっと見ていたいと思うの」
    虹彩が朝のひかりを映して輝くのを、男は今まででいちばん近くで見つめていた。瞬きのたびに、茶色いまつ毛がきらきらと影をくすぐる。
    それは、ちいさくも美しい世界であった。
    「…それは俺の台詞だ」
    『頼むから、どこにも行かないでくれ』
    喉の奥から出かけた言葉を飲み込んだ男は、腕の中に閉じ込められたまま熱を抱く生き物を抱き締めて、そっと瞳を閉じた。

    ──いちばん最初にあなたの瞳に刻まれたこの世界のいろは、朝焼けの色だとおもう。
    しろい百合のつぼみがひらくように、あおい湖面がゆらぐように、夜を乗り越えた柔らかなひとが、ああ、と涙を流して。あなたは美しい世界をしったのだろう。

    それは、10月の静かな朝のことであった。
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