「シンゴにもっと優しくしてやれって言ってるだろう」くすくす笑いでおきまりのように言うので、この前とまったく同じことを言うので、もうこいつに相談したところで、と思うのだけど、それでもジェンティーレにはヘルナンデスのほかにこういう話をしてもいいと思えるような相手はいないし――日向にはお相手がいるらしいが、あいつがこんな繊細な話に付き合ってくれるとは思えなかった。まあこの勘というのは実際のところ大間違いなのだけど、言い出さないことには本当のことなんてわかるわけがないので、ジェンティーレがそれを知るのはしばらく後のことになる――なんならヘルナンデスのほうから聞いてくるのだからしょうがなかった。
「言っておくけど、同じことを言うっていうのはな、意地悪なんかじゃないよ、おまえが進歩してないからなんだよ」それともほしい言葉がおありで。でも、だって、褒めるところがないんだもの。「ほんとうは褒めてやりたいさ。ああ誘えたんだ、って、亀はようよう歩くものだと」
お誘い。といってもそんなに難しい話ではないのだ。ただサッカーをやろうって、一緒に練習をしようってそれだけでいいはずなのに――食事に誘ってみる計画が持ち上がったこともあったのだけれどただのファストフードにもためらったので、ハードルはこうやって地面に倒してやったのにそれでも――頓挫した。なぜなら、電話のかけ方を忘れてしまったから。電話のその向こうの声が耳に届くまでに再構成を成す、不可思議とテクノロジー神秘に打ち震え抒情的センチメンタルに振り回されるうちに時が過ぎていたとさ。哀れだ。伏したハードルに足をひっかけて、見事に転びやがったのだ。
「そりゃあないだろうに!」
「うるさい、うるさい、うるさい!」悲痛なる叫びに、「オイタワシヤ」ヘルナンデスは日本語を使って戯れに呟いて目を細めた。
「おまえいったいなんだったらできるんだ」
体じゅうにさくさく刺さる辛辣な言葉を聞きながら、(そもそもあんなのを好きになっちまったのが間違いだったんだよ)ジェンティーレは思う。あいつじゃなければおれはもっとスマートに、それでいて強引に、ドラマチックで――すこしだけエロティックで――それから、なんだろう、とにかく、理想的な恋愛ができたはずだった、と、べつにそんなことはない想像をする。これがとんと、慰めにもならない。むなしいだけである。不毛である。「もっと建設的なことをしたほうがいい。破壊でも救済でもなく、現実を見ればいいじゃないか。それがそんなに難しいか?」ヘルナンデスが疑問をぶつけて、
「おまえはこんな気分になったことないだろうが」ジェンティーレが投げやりに返した。「胸のあたりがむかむかしやがる」
「単なる飲みすぎだ、それは」一拍おいて切り返す。「それから、おまえがおれをどう思ってるかしらないが、斯様な経験については人並みにはあるんじゃないかと」
「そうかよ、ああ、そうだろうさ! おれが言ってるのは、おれみたいな気持ちになったことが、もしくはおれみたいなのを相手にしたことがあるかってことだ!」
「おまえほど屈折してるやつはほかにいないね。少なくともおれの知り合いには」だから悪いけどそれはわからない。ああ、わからないとも。
「だけどそれって、なにか関係があって?」
「…………」
いよいよ黙ってしまったジェンティーレに、ヘルナンデスは冒頭の言葉を復唱する。一回、あるいは二回、それでなくとももう一度。