紆余曲折の末にワールドユースが開催されるとのことで、日本の選手として出場するべく海外から何人かが帰国している。かつての日本の23番もそうだ。かれの場合はアメリカからだった。そういうわけでおおよそ二年ぶりに後輩と顔を会わせた日向小次郎の第一声が、
「おまえ、なんか変わったぞ」
こうだった。
「まあ身長はけっこう伸びましたね」
そう応える通りに、すっと背筋を伸ばして立つかれにさして日向との身長の差はない。せいぜい、五センチといったところ。もう見上げるようなことはなかった。
「そういうことじゃない。なんだ、大人っぽくなったというか、垢抜けたというか‥‥」
「ああ、小綺麗になったな、たしかに」誰に聞かせるといった風でもなく、上から下まで、頭からつま先まで、ぼんやり目線を滑らせた若島津が呟いた。それを拾って「――それだ!」日向が声をあげた。そう。小綺麗なんだ。それが一番しっくりとくる。
一角の話が飛び跳ねて耳に届いた何人かがこっそりとうかがうようにかつての23番をちらりと見た。なんだか違うやつがいるように感じるという奇妙な感覚は実のところこのチーム全体がうすうす思っているところであった。男子三日会わざればと言うけれどもかれにいたってはまったく育ち盛り思春期まっただなかのうちの約二年ぶりであって、もはや刮目するまでもなく見るからに雰囲気が変わっているから、それは致し方のないことだ。あの日に焼けて茶色がかりぱさついていた髪はいまや黒黒としていくばくかの艶がでて、夏なんか真っ黒に焼けていた肌は健康的な色をしているばかりかみずみずしくて、それが、少年と青年のはざまである肢体に乗っかって、きらきらしている。口を開けばまだ生意気は出てくるものの、なんとも言えず落ち着いた声色にはほのかに理知的なものすらあった。
そしてはっと日向の頭に思い浮かぶのはライアン・オルティスの顔。かれの言葉に滲むものとは、まさにライアン少年の語調に感じるものであった。尾を引かずに軽やかに飛び去っていく澄んだその音といえば柔らかくて、いくらかは甘やかで、しかしほんの少しだけ冷えた色を持っている。
そこまで考えて、目の前にいるいつかのこなまいきでかわいい後輩のいまこそは、ここ二年ライアンにかわいがられて面倒をみられた結果なのではないかという考えに至り、まったくの外野にしろどうにも気恥ずかしい心地がした。「おまえ、影響を受けすぎなんじゃないか」
「え? それブレイクさんにも言われたんですよ。‥‥やっぱり、そういうことですかっ? おれ、そんなにライアンに寄っていってます?」
「見るからに」
「ボクたちはかれのことをあんまり知ってるわけじゃないけどね」沢田が言葉を引き継いだ。「でも、そうだろうなって思うくらいには」
「そうなんだ」かつての23番は我知らず笑む自らの口元をそっと手で隠してしまった。
そんな仕草、あの頃だったらぜったいにしなかった。