屋上で聞いた話静かな夜だった。
空は雲ひとつもなければ、頬を撫でる風もない。
夜も消えることのない眩しいネオンが見えるだけで、珍しくなにも聞こえなかった。
ネオン街の中心から少し離れた廃墟だからか、屋上まで登ってきても見えるのはカラフルな光のみ。錆び付いた鉄骨の一番上に腰かけていると、遠くからではなく近くで声が聞こえた。
「隣空いてる?」
目線だけ向けると、もっともここに足を運ばなそうな人間が立っていた。わざわざ登ってきたのだろうか。
「隣に来れるなら空いてるぜ」
「そこまで近くには座らないよ」
そう言って手を振り上げ、なにか飛んできたものを受けとる。冷えた缶の飲み物はアルコールではなさそうだ。
「なんだよわざわざ。酒でもねぇし」
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