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    zirakichi

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    zirakichi

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    ユルゲン・オズボーンの過去貴族であるオズボーン家に仕える女性の腹から産まれた。
    サラサラとした黒髪に金色の左目。ここまでは召使いの女性にそっくりであった。
    しかし、湖のような深い水色の右目で父親の正体が割れてしまう。

    彼は、オズボーン家当主と、その召使いである女性の間にできた子供である。
    表面上では"不倫"とされているが、実際は当主が立場を利用して、召使いの女性に性交を強要し、その末に命が宿ってしまったということだ。
    この事実を知るよしもないオズボーン家の正妻は激怒し、彼が産まれてすぐにその召使いの存在を消してしまった。元々身寄りのない女性であったのだろう、この事実が表に出ることは無かった。
    彼にももちろん、自分の本当の母親についての記憶はほとんど無い。
    ただ、胎内にいた頃にかすかに聞こえた鼻歌だけが記憶に染み付いている。

    父親は"副産物"には興味がなかったため、遺された彼も当初は殺されてしまうと考えられていた。しかし正妻は気分が変わったらしい。幼く、無知な彼をストレスのはけ口として使うようになった。

    彼は屋敷の外の人間の目につかないように、小さな窓がひとつだけある狭く暗い部屋の中に閉じ込められて育った。寝具はすっかり年季が入って薄くなったマットレスに、温度調節もろくにできそうにないタオルケット。
    食事と言えば毎日朝は古くなって乾いたパンと牛乳、昼と晩は少し遅い時間にオズボーン家の人々が食べた残りものが与えられた。教養に関しては、気の毒に思った召使いたちがこっそり教えてくれていたらしい。食事と睡眠以外の時間は基本的に召使いたちの慈悲で与えられた本を読んだり、こつこつと勉強をしていたようだ。
    そんな様子で黙々と過ごしていると、たまに"母"から「折檻」と称して鞭で体を打たれた。幼い体は、正面から鞭打つと直ぐに壊れてしまうので、主に打たれた箇所は背中であった。そのため、彼の背中には今も薄い傷跡が残っている。…ちぎれた耳も、彼を家畜同然だと思っての行動からだろう。何にしろ、全ては"母"のただの憂さ晴らしだ。

    苦しかった。痛かった。辛かった。
    でも"普通の生活"を知らない彼は、これが当たり前なのだ、とずっと思っていた。だから耐えることができた。皆、自分と同じくらいの子供はきっとこうなんだろうと。

    そんな生活が続いて数年が経った。
    彼が6歳になった頃だろうか。
    この頃には「折檻」の回数もだいぶ減ってきて、月に1度か2度の頻度になっていた。
    ーふと、小さな窓から数人の子供の声が聞こえてきた。"母"が産んだ子供達だ。すなわち、彼の"弟妹"である。
    それまで窓まで背が届かず、見れなかった外の世界。つま先を伸ばして、窓枠にしがみつき、外を覗く。

    そこには、温かい陽の光に照らされた、自分よりいくらか小さな子供達の、笑顔。笑顔。笑顔。

    知らない。おれはあんな顔はしたことない。どうして。おれだけだったの?こんなにも痛く苦しい思いをしたのは。陽の光に当たれないのは。笑えないのは。

    彼の中で何かが切れた。

    …それと同時に芽生えた意思があった。

    この、狭く暗い部屋から出たい。出なければいけない。おれだって、陽の光を浴びて、思いっきり笑ってみたい。

    その日の晩、いつも通り召使いの一人が夕食を運んできた。…告げ口されたら、きっとお母様に怒られてしまうだろうけど、それでも…
    「おれ、外に出てみたい、弟たちみたいに」
    ーー…
    しばらくの沈黙。
    「あ、ご、ごめんなさい、無理だよね、あの、お母様にはこのこと言わないで…」
    「ん〜〜…しょ〜〜っがないな〜!!」
    「えっ」
    返ってきた返事は存外軽いものだった。
    「ほ、ほんとうに?ほんとうにいいの?」
    「…まぁキミが弟たちと一緒に遊ぶってのはできないけど、キミを自由にする方法はひとつある。」
    「じゃあ…!」
    「チッチッ!リスクがデカいのよ。失敗すればキミもオレちゃんも多分殺される。」
    「ころ…される、」
    「…キミに命をかける覚悟があるんなら、オレちゃんも協力してあげよう。大人が度胸で子供に負けてちゃ、姉ちゃんにも顔向けできないからね。」

    失敗したら、殺される。おれも、目の前のお兄さんも。
    でも…成功すれば……?
    おれは、自由になれる。痛いのも、苦しいのもきっと終わるんだ。笑顔になれるんだ。
    「やるよ、おれ。どんな方法なのか、聞かせて。」

    そうして聞いたオズボーン家の家財が詰め込まれた金庫の場所と番号。作戦は翌日決行された。屋敷にけたたましく響く非常事態を伝えるサイレン。両腕いっぱいに盗んだ家財を抱えて、指示されたお兄さんの車まで必死に駆けた。耳がうるさくなるくらいの心臓の鼓動。とてつもない期待と緊張。
    ずっと、鮮明に覚えている。
    これからも忘れることはないだろう。


    車が止まった。目的地の「こじいん」に着いたのだ。抱えた家財を落とさぬように車から降りる。
    「…あ、そうだ。名前聞かれたらユルゲンって名乗りな。ユルゲン・オズボーン。」
    「わかった!」
    「ん、良い返事。あとは言った通りにすれば大丈夫。

    ……それじゃ、元気でね!」

    彼にとって、その笑顔は弟たちのものよりずっと眩しく、寂しく… 腕に抱えていた財産より輝いて見えた。
    自分も、いつかこうなりたいと密かに、強く思った。

    急いでロイヤルプロテクションの門にあるベルを鳴らす。
    「どちら様?」
    「あの!おれ、ユルゲン・オズボーンっていいます!おれをここに入れてください!お金になるものならたくさんあるから、だから、お願いします!」

    …これは後からわかったことだが、彼の逃走を助けた召使いは、彼の本当の母親の兄弟であった。
    その男の名は、彼に託したものと同じ。「ユルゲン」である。
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