「やっぱ変なんだよ」
アゲハが頬杖を突きながらそう言った。何が?と言うように首を傾げるチコーニャをび、と指差して、アゲハは口を開く。
「お前の弟の話だよ。」
チコーニャはぱちりと瞬いた。自分が見ている場所ではそんなことはないのに、と言いたげなので、アゲハは首を横に振りながら説明してやる。
いつ頃からだったか、正確な時期はわからないものの、あるときからグラウクスの様子がおかしいのだという。チコーニャの前では上手に隠していつも通りに振舞っていたものだから、彼女は全く気づいていなかった。
さて、どのようにおかしいのかと言えば、ある人物を見た時に顔を歪めるのだそうで。
「……ま、多分お姉ちゃんが取られたとか、そういう感じだろうがな」
「ええ……?」
「だってカノープスにプロキオン、ユーダリルを見たときにそんな感じの顔をするんだぜ?しかもグラウクスはお前のことを良く慕っている」
ちゃんと構ってやれよ、だなんてアゲハが笑うので、チコーニャは考え込むように顎を擦る。
「……わかりました、ちょっとグラウクスと話してみます」
「おう、それがいいな。まあ喧嘩になったら仲裁はしてやるよ」
アゲハが笑いながらそういうのを、他人事だからって、なんてため息を吐きながらチコーニャは聞いていた。お互い仕事がある身の上なので、早いうちに話した方がいいだろう。そう思ったチコーニャは、今日恐らく休みなのだろう弟の家を訪ねることにした。席を立ち、店を出て行くチコーニャをアゲハは見送る。
そして、その日からチコーニャはグラウクス共々姿を消すことになった。