がたんごとん。電車に揺られながらふあ、と善知鳥莉穂は欠伸をした。窓の外からは夕暮れの空と、赤い海が見えている。
「眠いですか、莉穂」
「うん……、ちょっとだけ。」
「着いたら起こしてあげます、寝ていなさい」
隣に座っている姉がそう言って頭を撫でてくるので、莉穂は眠たげに目を擦った。ふと、莉穂は窓の外に視線をやる。あまりに強い眠気に瞼を引き下ろされながら、はて、いつから自分たちはこの電車に乗っているのだろう?と疑問に思った。
波の音がする。善知鳥莉穂は目を覚ました。気がつけば古い廃駅のような場所に一人でいる。赤錆の浮くベンチから立ち上がり、鞄の紐をしっかり握りながら、恐る恐る莉穂は周囲を見回した。
「お姉ちゃん……?」
不安げなか細い声が廃駅に響く。答えはなく、姉どころか他の人影すら見当たらない。さり、と地面を擦った靴が、何かに当たったので下を見る。そこにあったのは無惨に砕けた木刀だった。屈み込んでそれを拾い上げる。見覚えのあるような、ないような。ともかくそれを鞄の中に収めると、莉穂は視線を感じて顔を上げた。
線路の向こう、赤い海がざあざあと波打っている。沈んでいるような、溶けているような、赤く煌々と不気味に輝く太陽と、自らの間に。
黒い、なにか、よくないものがいる。