「プロキオンさん」
「ん?どないしたの」
帰宅してすぐ、玄関先。チコーニャは家に上がる前にプロキオンに声をかけた。手を洗いに行こうとしていた彼は足を止め振り向き、思いの外彼女が思いつめたような顔をしているので少しばかり心配になる。
「その……」
「うん」
「で……」
「ん?」
もじもじと言いづらそうに眼を泳がせて顔を赤らめているので、ああこれは身構えることはないかもしれない、とプロキオンは彼女の普段の照れ隠しを思い出しながらじっと言葉を待った。ごくり、と喉を鳴らし、チコーニャはぐっと手を握りしめて意を決したように口を開く。
「お!おでかけ!しましょう!今度!」
要するに、デートのお誘いだ。チコーニャは顔を真っ赤にしてぎゅうと目を閉じている。言ってしまった!というような顔でぷるぷると震えているのが面白いやら可愛いやらでプロキオンは思わず吹き出してしまった。笑われたことで更に恥ずかしくなったのか、彼女は涙目になってきっとこちらを睨みつけてくる。
「ごめんて~。ほな次のお休み出掛けような。どっか行きたいとこあるん?」
いいこいいこと頭を撫でられまるで子供のような扱いにむ、と唇を尖らせつつも、デートのお誘いを快く受け入れてくれたことにほっと胸を撫で下ろした。手を引いて家の中に入りながらプロキオンがそう尋ねると、特に何も考えていなかったらしいチコーニャはきゅっと眉根を寄せて暫く考え込む。
「……特に考えていませんでした」
「んー、なら街中ぶらぶらしてみよか。そんでなんか気になるお店があったら入って物色するとか?」
こくこくとチコーニャが頷いた。プロキオンは笑いながらじゃあそうしよかと言い、二人そろって洗面所で手を洗ってからリビングに行く。ルピナスはもう寝ているのか部屋は暗く、かち、とスイッチを押して電気をつけた。ソファに座って、プロキオンが作り置きのおかずを温めているのを見ながらふとチコーニャが口を開く。
「ルピナスも遊びに行こうって言ったら喜ぶでしょうか」
「せやろなぁ」
「じゃあ……明日聞いてみます」
二人きりで、という話ではなかったのかと少しだけびっくりしつつも、この子なりに母親を頑張ろうとしているんだなとプロキオンは少しだけ微笑ましく思った。そこでいい考えが思いついたとプロキオンは早速それを提案してみようとチコーニャの方を向く。
「カノくんも誘ってみよか」
「!そうですね。家族ですし……」
当初、確かにチコーニャは二人きりでお出かけをするつもりで誘ったのだったが、これから時間はたっぷりあるのだし二人きりでのおでかけはまた今度でいいだろう。カノさんが今忙しくないといいんだけどなだとか、ルピナスも普段あまり自分たちに甘えないしいい機会だなどと思いながらチコーニャはうんうん頷く。その様子を眺めながら、プロキオンは温め終わったおかずを並べて一緒に食事を摂った。