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    CitrusCat0602

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    CitrusCat0602

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    二次創作物です

     プロキオンという男は空っぽだった。空っぽだったけれど、今その空っぽは溢れんばかりの愛で満たされている。

     意識が浮上した。うとうととうたた寝をしていたプロキオンは一つ欠伸をする。

    「休憩時間ぴったり寝て起きるなんて、器用ですね」
    「んあ?あー……」

     自分と似た色の瞳がじっとこちらを見ていた。ふへ、と微妙な笑いが彼の口からこぼれて、彼女は怪訝な顔をする。

    「僕の寝顔見とったんやろさては」
    「見てないです、変なこと言わないでください」
    「またまたぁ〜」
    「良いからあんたはさっさと書類を書け!明日兄さ……副隊長が帰ってくるんですよ!!」

     いつものように軽くどつかれるかと思っていたものの、なぜだか彼女は振り上げかけたクリップボードをぐっと堪えたような顔でおろし、ふいっとそっぽを向くと自分の机へ戻って行った。
     おや珍しいこともあるものだと言う気持ちでまじまじとチコーニャの方を見る。彼女は視線に気がついてか険しい顔で顔を上げると書類をかけと手振りで示してきた。いつもよりもやけに仕事をするようにとつついてくるので、プロキオンは少し不思議に思いながらペンを取る。インクがそろそろ切れそうだ。書類を書き終えるまで持つだろうかと少し不安になりながら彼は書類に手をつけた。

    「今日一人で寝ます」
    「えっ?」

     帰宅して少し休み、夕飯を食べている最中にチコーニャがそう言った。ぽと、と唐揚げを取り落とし、ちらりと視線を下に向ける。幸いお皿の上に落ちていた。
     いやまあ、チコーニャだって一人の大人だし。一人で寝たい時もそりゃああるだろう……などと思っていれば、チコーニャはこほんとひとつ咳払いをする。

    「明日……少し用事があって早起きするんです。」
    「ああー……でも、なら別に一緒に寝ても……」
    「ママねぇ パパもおやすみの日だからあんまり早く起こしたら可哀想って思ってるみたい」

     静かに夢中で唐揚げを頬張っていたルピナスがぴよんと耳を跳ね上げさせながらそう言った。チコーニャはやや動揺したようにルピナスを見て、それから何か諦めたような顔でふるふる首を横に振る。そうなの?とプロキオンが目で問えば、彼女は少しの間の後こくりと小さく頷いた。

    「チコちゃんて……やっぱり僕のこと大好きやんなぁ」
    「しみじみ言うな」

     軽くじろりと睨むもプロキオンにはあまり効果がない。チコーニャははあとまたため息を吐いてから食事を再開した。

     さて、一つ寝て起きれば宇宙船に乗って旅をしていたカノープスたちが帰ってくる日だ。正午には着くという話だったので出迎えに行ったのだが、その足でプロキオンはカノープスとニブルヘルを歩いている。

    「なんぞ買いたいもんでもあるんか?」
    「いえ……、まあ、少し。」

     なんだかもごもごと妙に歯切れの悪い返答だ。何やら隠し事をしているらしい彼に少しばかりの心配をにじませれば、カノープスは慌ててそうじゃなくて、と両手を忙しなく動かす。

    「ええと……ラボに行きましょう。リリーに呼ばれているんです」
    「?なんやろ、お茶会にでも誘われるんかな」

     のんびりと首を傾げるプロキオンを連れて、カノープスはラボに向かった。ラボに着くとリリーが出迎える。

    「あら。早かったわね。……大丈夫よぉ、ほら着いてきて」

     何やら大丈夫と言いながらリリーは二人をラボの一室まで連れて行った。カノープスは部屋に入る前にシリウスに会いに行くからと一旦二人から離れ、それを見送ってから中に入ればやはりいつものお茶会の用意がされている。何やら仕切りのようなものもあるのだが、その奥を気にするよりも先に室内にいた面々を見てプロキオンは目を丸くした。

    「なんやドグマとプレイアもおったの」
    「おう、まあ、手伝いで?」

     ドグマは軽く肩を竦めつつ、ここ座れよと席の一つまでプロキオンを連れて行き座らせる。ちゅん、と鳥の鳴き声のような声を上げながらぴょこぴょことプロキオンの元までプレイアがやってきた。
     ぴよぴよと揺れる尾羽を眺めながら、今こうして二人といられることを感慨深く思う。一昔前はこんな風にまた穏やかに話すことができる日が来るだなんて思ってもいなかった。

    「ドグマ、はいお湯」
    「ん、わかった」
    「えっ、ドグマが淹れるの?」

     てっきりリリーがいつものように紅茶を淹れるのだとばかりに思っていたので、一瞬脳裏にドグマの作った諸々がよぎったプロキオンは思わず動揺した。それにリリーは面白そうな顔をして意地の悪そうな笑みを浮かべる。

    「あらぁ、心配なの~?ドグマが傷つくわよ?」
    「おっそうだな。しくしく」
    「わざとらしいねん泣き真似が」

     ドグマはまあまあ、と笑いながらポットの中身をカップに注いだ。鮮やかな赤茶色の液体がカップを満たしている。

    「プレイアはまだおこちゃまだからミルク必須だよなぁ?よちよち、先に入れといてやろうな」
    「おまえ後で覚えてろよ……」
    「よく我慢できたわねプレイア」
    「お茶が駄目になるのはよくないから我慢したちゅん」

    そんなやり取りをぼーっと眺めていれば、また部屋の戸が開く音がした。目を向ければそこにはユーダリルが立っている。

    「おや、もしや少し早く来すぎてしまったでしょうか?」
    「いや?ま、空いてる席に座って待っててくれよ、ユーダリルちゃん」

     二人のやり取りを見ていたプロキオンは何故このメンバーなのだろうかと首を傾げてリリーの方を見た。視線に気が付いてか彼女はちらりとプロキオンを見て、にこりと笑う。

    「本当はセフィも呼びたかったのだけれど、残念ながら今日は無理だそうよ。」
    「な……何……?ほんまわからんどういう選び方しとるの今回のお茶会」
    「ふふふ。」

     リリーはそれ以上何も言わない。余計に混乱することになってしまったプロキオンは軽く唸り声を上げた。リリーはふと席を立つと扉を開ける。丁度ペテルギウスがドアを開けようとしており、驚いたように目を丸くしていたがすぐに申し訳なさそうに眉尻を下げた。

    「すまない!少し準備に手間取ってしまった」
    「あら。カノープスたちは?大丈夫かしら」
    「うむ……少し見に行った方が良いかもしれないのだ……」
    「そう。じゃあちょっと私は席を外すわぁ。」

     リリーはひらりと手を振って部屋を出て行く。プロキオンは目をぱちくりとさせながら他の面々を見た。この場で事情を把握してないのはどうやらプロキオンだけのようである。ドグマは一旦仕切りの奥に引っ込み、プレイアは何やらそわそわとしてペテルギウスに宥められていた。

    「戸惑っているようですね、プロキオン」

     その様子が妙に面白かったのだろうか、笑いを堪えるような声音でユーダリルが話しかけてきた。

    「まあ……何が起きるんかなーとは……。というかなんで僕以外把握しとるの??」
    「それだけ好かれているということですよ」
    「どういうこっちゃ」
    「ははは」

     頻りに首を傾げながら、プロキオンはとりあえず紅茶を啜る。咥内に香る上品な香りを意外に思いつつ、リリーにちゃんと教わったのだろうなと少し微笑ましく思った。目元を緩ませ物思いにふける友人を見て、激動を間近で見守っていたユーダリルもまた穏やかな笑みを浮かべる。
     また部屋の扉が開いた。リリーが入ってくる。その後ろにルピナスとシリウスが着いてきていたが、カノープスの姿は無い。シリウスはいつも通りの表情だが、ルピナスは何やら目を輝かせながらほっぺをふくふくとさせていた。

    「うん、まあ何とかなりそうだったわ。とりあえず、そうね。予定通り渡してしまいましょう」

     リリーがそう言って笑う。何のことやらちんぷんかんぷんなプロキオンを他所に、仕切りの後ろから片手に大きな袋、もう片方に丁寧に包装された包みを持って出てきた。そして袋を広げるとプロキオンの手に持たせる。

    「ほれ、しっかり持ってろよ」
    「んっ!?なあちょお待ってほんまに一体何ーーー」

     席に座っていた一同も立ち上がり、わらわらとプロキオンに寄る。ギョッとしているプロキオンはそれでもちゃんと袋を持っているので、一つ二つと袋の中に綺麗に包装された物品が詰め込まれていった。徐々に重たくなる袋を持って目を白黒させていると、また扉が開く。今度は何事かと目を向ければ、そこにいたのはカノープスとチコーニャだった。カノープスはケーキを、チコーニャは二つの包みを持っており、カノープスはそのケーキをプロキオンの前に置いた。
     カノープスたちの誕生日祝いなどで見たことがある。それはバースデーケーキだ。後ろからチコーニャの手が伸びてきて、袋の中の贈り物の山の上に二つの包みが乗せられる。

    「生まれてきてくれてありがとう、父さん」

     そこで漸くこの場が自分の生誕を祝う場であると理解し、プロキオンは目を丸くしながら一同を見回した。それから改めてバースデーケーキを見る。カノープスだけでなくチコーニャも一緒に作ったのだろう、ところどころ不格好だ。なんだか言葉にし難い感情で胸がいっぱいになって、プロキオンは絞り出すようにありがとう、と口にする。ルピナスが顔を覗き込もうとして、そっとリリーに止められた。

    「さ、この歳になってからというと恥ずかしいかもしれないけれど、こういう時はやることがいくつもあるわ。まずはロウソクに火をつけて歌を歌いましょうか。」

     そんなリリーの言葉を皮切りに、プロキオンの誕生日を祝う誕生日会が始まる。ロウソクにつけられた火を眺め、周りの歌を聞きながら彼は照れ臭そうにはにかんだ。

     プロキオンという男は空っぽだった。空っぽだったけれど、今その空っぽは溢れんばかりの愛で満たされている。
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