場所はエリダナ、繁華街の端。塾講師の帰りに気まぐれで知らない店に入ったら典型的なぼったくり。相手がもぐりでガユスの顔も名前も知らないため面倒になってギギナを呼ぶ。警察に通報させてくれないだろうし、警部の個人的な番号にかけて博打すんのもいやだし、ギギナにするか、もうこんな店どうなってもいいや俺が怒られなければ、とギギナに擦り付ける気満々。
「手持ちの現金がないからおともだちを呼ぶね、あんたたちの「おもてなし」が気に入れば喜んで払ってくれるさ。銀髪で、胸が大きくて、顔が良くて金遣いが荒くて……」
(この時点で、チンピラ全員とギギナがレディファイ!して勝てばいいやと投げやりな気持ち。店側も”おともだち”がどんな相手でも勝つ気でいたが雑な紹介に女か?と色気を出して通話を許すという墓穴を掘る)
「麗しの相棒くん、おまえいまどこにいる?……割と近いな、どうしてもおまえと遊びたいって言う奴らがいてな、楽しませてくれるらしいから~位置情報送る。来い。今朝の領収書は俺が握っている」
「さてそれじゃあもう一杯くれ」
「図太いな……」
「売上が増えていいだろ?」
客が入ってこないように閉めた扉の前で短くやりとり。なんだおまえ、迎えだ、赤毛眼鏡がいるだろう。ああ、アンタがおともだちか。
「よう」
囲まれている中で呑気に飲んでいる。
照明の届くところに出てきたギギナを見てさすがに幾人かが気づいてざわめく。ギギナだ、マジかよ。
「貴様の面倒に私を巻き込むな。便利に使うな。帰るぞ」立て、とまったく空気を読まないものいいに別のざわめき。
エリダナ一の剣士だが何だか知らんが舐めてもらっちゃ困るんだよなァ
「ほらギギナ、遊んで欲しいらしいぞ、その辺のものを壊さない程度に暴れてこい」
「遊びにもならん」
つまらん掃除に人を使い立てるなと改めてガユスに釘を刺し。
腕自慢の一番大きい男を一撃でのして、泡を食ってとびかかってきたその他をびしばしずびしと短い効果音で床に沈める。ガユスがちびちび飲んでいた最後の一杯を取り上げて飲み干す。口を尖らせたガユスが立ち上がると、目を細めてさっと手を伸ばす。さらうように胴に腕を回して肩にかつぎあげる。
渋い顔をして一部始終を見ていたマスターにさかさまのガユスが、「もぐりだからってあんまり阿漕な商売してるなよ~もちろん通報させてもらうし全員顔は記録したから~」ギギナを使って支払いを踏み倒したのにまるで善人のようなことを言う。げらげら笑ってむせる。ギギナは何も言わずに踵を返して店を出る。
夜の街を、ガユスを肩に担いだまま歩く。「貴様一服盛られているぞ」「えっ」覚えがない。ギギナが来るまで追加で飲んでいた分だろうか。なかなか抜け目ないマスターだ。というかマスターだけがそれなりであとは信じられない田舎者ぞろい。エリダナなのに!
「治療する」「ええ~?優しくしてくれるなら考えないでもない」
「今夜の支払いは」
「それなら仕方ない」
なにおまえちょっと機嫌よくない?なんで?
「私を呼んだのは首から上が飾りの眼鏡台にしては悪くない判断だ」
わあギギナのデレだ、と思っていると、実はガチめに盛られていて、普通に治療されたあと「間に合ってよかったな。場合によっては命にかかわる種類の毒物だったぞ」ってしれっと言われる。たぶんフグ毒かなんか。
事務所。
「もしかして俺死ぬところだった?!」
「だから悪くない判断だと言ったろう」
このあと滅茶苦茶料理した。