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    転生の毛玉

    あらゆる幻覚

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    転生の毛玉

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    【創作】ヌビアの子
    ラナークくんの誕生日です

    ##創作

    ラナーク誕「ラナーク、誕生日なんだろ。おめでとう」
    ヌビア学研究所、敷地内。兼、オレたちの通学路。
    ふと思い出したように、一緒に下校していたエルベがそう口にした。
    「え……あ、あぁ。ありがと。知ってたんやな」
    「ん」
    エルベは歩きながらにカバンを探ったかと思うと、オレに向かってスナック菓子の包を差し出してきた。
    「嫌いじゃなきゃ、コレ、やるよ」
    「あ、えーっと、ありがとさんなぁ」
    オレはそれを受け取る。
    普段と異なるエルベの心の声は、特に聞こえない。断らないで欲しいとか、反対に断って欲しいとか、そういう声は何も聞こえない。
    ────ただ、いつも通り、薄らと『嫌わないでほしい』と思い続けているだけ。
    ならば、貰えるものは素直に貰っておいたほうがいい。人間関係を円滑にするためだ。
    「後でゆっくり食べさしてもらうわ」
    「大したもんじゃねぇよ。誕生日プレゼントにしちゃ、地味なくらいだ。実際、オレが普段食ってる菓子を一つ寄越しただけだしな」
    エルベは、金色と赤色の目を細めて笑った。

    *****

    「ただいまぁー」
    オレは、一人暮らしの部屋に帰る。当然、返事はない。
    どさっ、と荷物を置いて、椅子に座る。壁に掛けたカレンダーを見た。
    「はっ…やいなぁ」
    オレは呟いた。

    このヌビア学研究所に、【ヌビアの子】として呼ばれてから早一ヶ月少々。いつのまにか、5月も半ばになってしまった。
    ヌビア学研究所付属高校2年生に編入し、すぐさまクラスに馴染める気がしないと自覚して自習室登校に切り替えたのも、既に一ヶ月は前の話。今や、クラスの奴らの内心の欲求の煩さに懐かしさすら覚える。

    「せや、エルベの菓子」
    思い出して、オレはカバンを漁った。一人暮らしをすると独り言が多くなるとは聞いていたが、ここまで顕著だとは────と、笑いそうになる。指先に触れて、かさっ、という音がした。オレはスナック菓子の袋を取り出した。どうやら、ジャガイモで出来たピリ辛のお菓子らしい。
    「うまそーやんけ」
    オレはその封を開いた。

    さくっ、とイモ菓子を齧り、カレンダーを眺めながら、一ヶ月少々を振り返る。
    同じく【ヌビアの子】として集められた面々との人間関係についていえば、今に至るまで概ね好調だった。むしろ、ここまで安定した人間関係を築けたのは人生でも初めてだった。
    と、いうのも、彼らの多くは『〜してほしい』という積極的な欲求を持っていない。
    例えば、エルベのように、『嫌わないで欲しい』とか、或いはトゥニャの『話しかけないで欲しい』、セーヌの『一人にして欲しい』といった消極的欲求を持っている場合。この場合、オレがなにか能動的に動く必要が無くなるので、極めて楽だ。
    例えば、ラリベラやフエ、ラサの場合。彼らなんかについては、まだ心の声を聞いたこともない。よっぽど、欲が無いのかもしれない。当然、オレが動く必要はないので、やはり楽だ。
    反対に、【カリスマ】や【野望】として、オレの能力如何に関わらず相手を動かす力がある人間の場合。この場合も、ずいぶん楽だ。オレだけが欲求に引きずられて、孤独に言いなりになって─────ということもないし、そもそも本人たちが『自分たちが願っている』ということを自覚している。無自覚の欲求の方が、遥かに質が悪い。

    (変な連中やんなぁ。人間臭さがあらへん)
    思いながら、また、サクッ、と菓子を齧る。香ばしくて、これがなかなか癖になる。
    (言うたら、オレも【そっち】の仲間なんやろけど)

    その時、携帯電話の通知が鳴った。
    画面を見れば、【カリスマ】姉妹からの、誕生日祝のメッセージだ。白いケープが可愛い姉と、ピンクのツインテールが可愛い妹。【カリスマ】なだけあって自我の強さが目立つが、ある意味裏表が無くて好ましい姉妹だ。

    『ラナークくんへ♡
    お誕生日おめでとう!
    今日は実験があったから、直接お祝いできなくてごめんね><
    明日お祝いするから、夕方15:00に研究棟のカフェテリアに来てね♡待ってるね!
    アイール&テネレ』

    「………ちょっとは、青春、期待してもええんかなぁー」
    天井を仰いで、ぽそっ、と、オレは呟いた。
    この【優しさ】から逃れたいがために集まったヌビア学研究所ではあるが、思いがけず、人生が楽しくなりつつあるのだった。
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