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    転生の毛玉

    あらゆる幻覚

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    転生の毛玉

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    【創作】ヌビアの子 セーヌちゃん
    カステルちゃんの誕生日が近いよ

    ##創作

    こがゆ静かな自室。
    壁に掛けたカレンダーを見る。指を、8月8日の数字の上に乗せる。
    この日は、【彼女】の誕生日。
    私が今、たった一人尊敬し愛する、【ヌビアの子/スピード】の誕生日。

    (カステル)

    その名前を胸の中に浮かべるだけで、不思議と笑顔になる。
    たった数ヶ月前までは、こんな風に温かな気持ちにしてくれる存在なんて無かった。

    *****

    私の周りには、私を疎ましく思う人間ばかり。
    顔も見たことのない両親。
    腫れ物のように私を見る義理の家族。

    疲れを知らないと見れば、奴隷同然の扱いをされることもあった。無理な仕事を押し付けられたり、ここぞとばかりに暴力を振るわれたりすることもあった。
    それでも疲れず、眠れず、傷つきも痛みもしない体が嫌いで仕方なかった。

    だから、【ヌビアの子】として招集されるに当たっても、希望なんて一つもなかった。
    (あぁ、今度は実験用のモルモットになるのね)
    そう思うだけだった。ある面ではそれは間違いではなく、ある面では大間違いだった。
    他の【ヌビアの子】の存在が、────カステルの存在が、私の世界を彩った。

    『セーヌにだって、得意や不得意、好き嫌いはあるだろう。無理に応えなくていい』
    『だけど、私、得意なことなんて…』
    『地道な作業ができるじゃないか。アタシには無い力だよ。尊敬する』

    『私、自由時間と言われても、何をしていいか分からなくて…』
    『なら、昼寝をしよう。アタシ、昼寝が好きなんだ』
    『で、でも私、眠れないの』
    『眠れない?…分かった。おいで、ほら、横になって』

    何度もそんなやり取りを繰り返した。
    やがて私は、人生で初めて眠り、夢を見た。
    それは、カステルがいつまでも隣にいてくれる、幸せな夢…

    *****

    (カステルへのプレゼントって、何がいい、のかしら…)
    私は、カレンダーを見ながら考えた。残る日付は、約一週間。
    ヌビア学研究所附属大学(カステルの場合は附属高校)は夏季休業に入るけれど、ヌビア学研究所そのものには夏休みらしい夏休みはない。買い物に出るとしたら、休みの日がチャンスだ。
    (幸い、お金はあるけれど)
    【ヌビアの子】として集められ、実験を受ける。それだけで、一人暮らしには余りあるだけのお金をもらっている。【ヌビアの子】自体が法律で保護された存在だから、当然とも言える待遇だとは思う。だけれど、私にはそのお金を使い切ることなど出来ない。使う当てもない。
    (……どうせなら、高級なものをあげたい。でも、遠慮されたら…)
    私は、決して幸福で裕福な育ちではなかった。
    おそらくカステルも、余裕のある育ちではなかったのだろうと思う。まだ、本人の口から深く聞けたわけではないから、予測に過ぎない。けれど、時折過去の話からそんな気配を感じている。
    つまり双方、高級なものに対する免疫がない。買い方も、持ち方も、分からない。
    (リヨンさんたちとか、アイールさんたちに聞けば、何か分かるかな…)
    頭の中に、ヌビアの子メンバーの中では上位の、富裕層育ちの姿を浮かべてみた。
    リヨンさんやハンザさんは地方の大地主の子息。それからアイールさんたち双子は、この中央都市の高級官僚のご令嬢。だから、『いいもの』については、きっと詳しいのだと思う。
    (で………でも)
    彼女たちに、どう話しかけていいか分からない。
    決して、悪い人たちではないと思う。少なくとも、私のことを《気味悪い生き物》として見ている様子はない。
    (彼らもまた【ヌビアの子】として、人に願望を押し付けられたり、ずっと遠くの音が聞こえたり、一度見たものを決して忘れなかったりするのだから、《眠らずに働き続けられる》という私の力も、彼らにとっては特別おかしなことではないのだと思う。)
    だからといって、私が彼女たちに気軽に話しかけられるかと言うと、それは別問題だ。
    単純な話だ。私に、人とのコミュニケーションの経験が欠如しているのだ。
    (だからといって、一人でカステルへの誕生日プレゼントを選ぶなんて)
    考えて、ますます無理だと頭を横に振った。
    誕生日プレゼントなど、贈ったことはない。貰ったこともない。何とはなく、黄色い立方体型のプレゼントボックスにピンクのリボンが巻いてあって…というイメージはあるが、現物を見た例はない。

    「あぁ…ど、ど、ど、どうしようっ……」

    私は頭を抱えて、長くなった前髪をわしわし乱した。
    カステルを困らせたくないという不安。
    カステルを喜ばせたいという奮起。
    それがぐちゃぐちゃになって、胸の中がいっぱいになる。
    こんな気持ちは、生まれて初めてだ。
    「……カステル」
    決して、嫌な気持ちではなかった。
    むしろ、ちょっと、かなり、幸せだった。
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