誰が為のレクイエム ~日常ver.~「あっ!お師匠様!何してるんですか!?」
声に振り返ると、買い物に行っていた筈の弟子の姿。
しまった……もう帰ってきたのか。
リーゼロッテの手にはリンゴが1つ。
しかし不器用な彼女は包丁すらまともに扱えないので時々、弟子に内緒でこっそり丸かじりしていた。
まぁ、大概バレるし今もこうして見つかった訳だが。
「いや~……ちょっと小腹がすいてのぅ……」
「だからって丸かじりするなっていつも言ってるでしょう!ほら、貸してくださいよ」
全く……と言って我が弟子ことグラティアはリンゴを器用に剥き始めた。
「いつものやつな!」
「はいはい、うさぎさんね。切る方は面倒なんですけどねぇ……」
「リンゴは皮が美味いのじゃ!」
「だからって女性が丸ごとリンゴを齧るのはよろしくないですよ」
はいどうぞ、とうさぎに変わったリンゴが綺麗に皿に並んで出てくる。
相変わらず早いのう。
「また耳から食べてるし……」
「食べ方なぞなんでもよかろう。行儀悪いことしてるわけでもあるまいし」
「いや、丸かじりの時点でお行儀悪い」
「包丁使えないんじゃから仕方なかろうて」
「待ての出来ない犬か貴方は」
若干貶された気もするが、大好物を前にしてはそんな事気にもならず。
夢中でリンゴを食べ進めていく。
「相変わらず好きですねぇ、リンゴ」
「む、リンゴ美味しいじゃろ?この辺はいつでも買えるしの」
「まぁ、それはそうですが。お師匠様は特に」
「小さい頃母親がよく出してくれたからのぅ。影響もあるんじゃろうて」
「母親ねぇ……」
グラティアを見ると何か考えるようなそんな表情で。
過去の事を覚えてないから気にしているのだろうか?
「……すまん、気に障ったか?」
「いや別に?記憶無さすぎて俺にはよく分からない事なんで」
「そうか、ならいいんじゃが」
「まぁ、でも言いたいことは何となく分かりますよ。確かに影響はされるかもしれません」
そう言ってグラティアは最後の1つをひょいと摘んだ。
「あ!最後の1個!こら待て!食べようとするんじゃない!」
「1つくらい良いでしょ、切ったの俺なんだから」
「全部儂が食べるんじゃあ!」
「お師匠様りんごに対して暴君すぎるでしょ」
リンゴを持った手を高く掲げられる。
この身長差ではまず届く事はないと分かっていてもなんとか届かないものかとジャンプするが、もちろん届く訳もなく。
最後の1個は目の前でグラティアの口に放り込まれた。
「あーーーっ!儂のリンゴぉーー!」
「俺も好きなんですよ、リンゴ。誰かさんの影響で」
そう言ってグラティアははにかむように笑った。
~完~