ある日の花畑にて 眼前に、一面の花畑が広がっている。
それらをぼんやりと眺めつつ、エリックは少しでも早くこの場から帰りたいとため息を吐いた。
というのも、エリックから少し離れた所では同じフリーカンパニーに所属しているロッコとジジ、それからその二人の友人であるタゼルとマリス、あとトンガリとかいうエレゼンの青年が各々思い思いにじゃれついているからだ。(正確には、タゼルとトンガリは別のフリーカンパニーに所属しているが、正味、これはエリックにとってさほど重要ではなかった。)
ロッコとジジは互いに花冠を作っているし、タゼルとマリスに関してはやけに凝った作りの花冠を頭に乗せたマリスが、タゼルの角と頭の隙間にひたすら花を差し込んでいるし、トンガリとかいう青年はマリスとタゼルの尻尾の先に花で作ったらしいリングをはめていた。
――なんだこれ。
そもそも何故こうなったのか。
エリックの記憶が正しければ、ちょうど一時間ほど前、グリダニアのとある一帯に、見たことのない花畑が広がっているとかで、ジジからリンクシェル通信を受けたのが始まりだった。
普段なら、そういった場所は大抵精霊がらみの何かしらがあるために避けるのだが。
ジジから連絡を受けたとき、隣で本を読んでいたアルチュリーが手を止めて、エリックの方を見た。
それは本当にただ、こちらの方を見ただけかもしれない。
けれど、エリックはそれだけでその花畑に行くことにした。
――とはいえ。
「やっぱ止めときゃよかったか」
花畑で遊び始めた男たちを遠巻きに見つめながら、エリックが己の判断を少しだけ後悔した時だった。
ぱさり、と頭に何かを乗せられる感触と、花と草の匂いがふわりと降りてきた。
「似合ってるよ」
匂いと一緒に、降ってきた声の方へ顔を向けると、アルチュリーが悪戯っぽく笑っている。
「冗談やめろ。似合うわけねえだろ」
「そう? かわいいけど」
くすくすと笑いながら、アルチュリーが隣に座る。
「止めろっつってんだろうが。大体、こういうのはお前の方が似合うだろ」
何の気なしに、いつものようにエリックはそう返した。かわいいと言われた腹いせもなくはなかったが、自分よりもアルチュリーの方が映えるだろうと思っていたのも事実だ。
だがわざわざそこまで言うエリックではないし、アルチュリーもいつもの軽口として返してくるに違いないと、そう思っていた。
だから、普段ならこの後もすぐに返ってくるだろう言葉がなにも無いことに違和感を覚えて、エリックは隣を見る。
「――っ」
唇をぎゅっと小さく噛んで、耳の先まで赤く染めているアルチュリーに、エリックは目を見開いた。
「………………アル、お前、もしかしっぐおっ?!」
エリックが言いかけた言葉を遮るように、アルチュリーは座ったままどすりとエリックに体当たりすると、そのままエリックの腿を枕にするように寝転ぶ。
かと思えば、体のむきをころころと変えて、エリックの腹の方に顔を向けた。
「……おい、」
「…………………作って」
「あ?」
「じゃあ作って、僕の分」
小さな、とても小さな声だった。
作れって何を、と言いかけて、エリックは頭の上でずれた花冠に手をやり、はたと気付く。
「作れって、お前、花冠をか?!」
「他に何があるの? バカなの?」
「俺が作ったことあると思ってんのか? ………あー、あー! クソ! 不恰好でも文句言うなよ」
「えっそれはやだ……」
「クソガキがよ」
そう悪態をつきながらも、なんだかんだ己の『お願い』を聞いてくれるエリックに、アルチュリーはほんのすこしだけ口元を緩ませたが、それを知っているのは本人だけであった。