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    あのま

    絵柄安定しないんだよね

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    あのま

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    手慣らしに描いてたやつ
    手握りおむすびの件から現世のものに知識ないネタをやりたかった
    でもコーヒーくらいなら瀞霊廷にもあるか…?長次郎が紅茶を広めてる?とかなんとか言ってたような気もするし…
    でもあの二人はやっぱ現世のものには疎いと思うのでそういうことで

    コーヒー「いい香りだね、なんだいそれ」

     朝日が差し込むリビング。見慣れたはずの場所に、見慣れぬ男が立っている。
    「普通のインスタントコーヒーっスけど……」
     俺はマグカップを机に置いた。
     昨晩、色々と理解の追いつかない出来事が起きた末にウチにやってきた男が二人。
     そのうちの一人、弓親さんはコーヒーが入ったマグカップをもの珍しそうに覗き込んでいる。スーパーで安売りされているただのインスタントコーヒーなのに。
    「えーっと……弓親さんも飲みます?」
    「じゃあ、遠慮なくいただくよ」
    「ちょっと待っててください」
     電気ケトルにお湯は十分残っているので、来客用のコーヒーカップを食器棚から取り出す。
     チラリと後ろを伺うと、椅子に座った弓親さんは卓上に置きっぱなしになっていた雑誌をめくって寛いでいる。本当に遠慮がない。
     父親は単身赴任中。母親は祖父母の看病のためにしばらく実家に帰っている。従ってここ浅野家は姉・みず穂と俺こと浅野ケイゴの二人暮らし。
     その姉は生徒会の用事があるとかで早朝に出て行った。まだ寝ているところを叩き起こされ、くれぐれもお客様に失礼のないようにもてなせと薄暗い中で胸ぐらを掴まれた。泣きたくなるような目覚めだった。
     もてなせと言われても、今日は平日だし俺だって普通に学校に行かなきゃいけない。適当に朝飯を用意して冷蔵庫に入れて、書き置きを残して出ていけばいいやなんて思いながら二度寝した。
     そして目覚ましに起こされた頃には既に洗面所で弓親さんが身なりを整えていた。
     昨晩のことも今朝の姉の脅しも、目覚めて一瞬で忘れる夢だったらよかったのに。
     目尻から伸びる謎のエクステだか触覚だか分からないのものを整える弓親さんに、やあおはようなんて言われて。はあどうもなんて愛想笑いで返してしまった。
     まいったなあどうしようと思いつつ、朝の日課であるコーヒーを入れていたところで冒頭に戻る。
     瓶に入ったコーヒーの粉を適量、カップに掬い入れる。それからお湯。そしてかき混ぜる。
     振り返って弓親さんに声をかけた。
    「砂糖とミルクは要ります?」
    「え?」
    「コーヒー、このままだとブラックなんですけど」
    「よく分からないから任せるよ」
    「ええ……?」

     よく分からないのはこっちの方だ。

     後で文句を言われても困るので用意だけはしておこう。どこかに客用のスティックシュガーやコーヒー用のミルクが備蓄されていたはず。
     戸棚を探りつつ、ふと昨晩のことを思い出す。

     目の前で殺されそうな一角さんを平気で見捨てようとしていた、弓親さんのことを。

     死ぬことが本望だとか言われても、分からない。
     もし友達が死にそうな目に遭っていたら、俺ならきっと助けに入る。助けるというか、一緒に逃げたり警察を呼ぶくらいしかできないと思うけど。

     本人が望んでいるから?
     それなら死んでもいいって本気で思ってるのか?

     そんなの分からない。
     理解できない。

     もしかすると、本当は仲間じゃないのだろうか。何か事情があって一緒にいるだけで、実は二人は仲が悪いのだろうか?
     訳の分からない奴に殺されそうになっているのをただ見ているだけなんて。

     にも関わらず、なんとか助かった一角さんを弓親さんは介抱していた。怪我をした一角さんに肩を貸し、二人でウチに転がり込んできた。
     
     よく分からない。

     戸棚の一番下の引き出しに未開封の袋を見つけた。スティックシュガーとミルクを一つずつ取り出す。
     ソーサーも用意して、スプーンと一緒に添える。

    「どうぞ」

     弓親さんの前に置く。どうも、とさも当たり前のように弓親さんはカップに手を伸ばした。
     そして一口飲んだと思ったら。
    「うッ……、何コレ! 苦ッ!」
     思い切り顔を顰めた弓親さんは口元を抑えた。信じられないものを見るように目を見開いている。
    「いやあの、だからそれブラックだって……」
    「何やってんだ、弓親」
     俺の声を遮ったのは一角さんだった。
     昨日死にかけていたはずだが、わりとピンピンしている。恐ろしく丈夫な人だ。
     弓親さんと入れ替わりで洗面所を使っていたらしい。タオルでつるりとした頭を拭いて肩に掛けた。
     
    「あ、一角! ちょっとコレ飲んでみてよ!」

     弓親さんは立ち上がり、ソーサーごとカップを一角さんに押し付ける。
     一角さんの分も用意しようかと声を掛ける前に、一角さんはカップに手をつける。取っ手の部分じゃなく、カップの縁を掴む豪快な持ち方だ。
     訝しげにしながらそのままぐいっと中身を傾けた。
    「苦ェ……なんだこりゃ」
    「いい香りだからどんな味がするかと思えば、とんでもないよね」
    「現世の気付け薬か……? 朝っぱらからこんなもんで目ェ覚ましてるっつーのかよ」
     二人して顔を顰め、やけに神妙にしている。
     何を言っているのか分からないが、一つ分かることは。
     この二人はコーヒーを見たことも飲んだこともないらしい、ということ。
     そんな人間が現代日本に存在するとは思えないが、このあり得ない反応。俺にドッキリを仕掛けているという訳でもなさそうだ。
     というか、人間かどうかすら怪しいんだった。
     なんか空を飛んでたし変形する武器で戦ってたような気もするし。
     昨晩のことを深く考えるとドツボにハマりそうなので思考を切り上げる。
    「あのー。それ、砂糖とか入れたら多分飲みやすくなりますよ」
    「じゃあ最初から入れておいてくれよ」
    「……」
     呆れたような弓親さんの物言い。この手の理不尽には慣れている。
     いつもなら盛大なツッコミをかますのだが、得体の知れない二人組を前にしたら逆に冷静になった。黙るのが吉だ。
     二人からカップを受け取って、シュガースティックとミルクも入れて混ぜる。底に沈んだ砂糖のざらつきを感じなくなったところで二人にカップを返した。
     弓親さんがそれを一口飲む。
    「なんだ、これなら美味しいじゃないか」
    「妙に甘ったるくなったな。まあ、元よりは飲みやすいが」
     弓親さんからカップを受け取った一角さんも今度は控えめに一口飲んでいた。

     というか。
     仲良いなこの二人。

     あれこれと言い合いながら二人で一つのカップを共有してコーヒーを飲んでいる。
     家族以外の異性とは意識してしまうが、同性同士なら回し飲みくらいするだろう。
     それでもあまり仲の良くない相手とは遠慮したい行為かなとも思う。
     とはいえ。
     ちょっと一口もらうくらいならよくあるが、一つのカップで飲み物をそのまま一緒に飲むなんてなかなかやらないだろう。
     二人の距離感の近さに困惑する。

     やっぱり仲が良いとしたら。
     それも、すごく親しい関係だったなら。

     昨晩、目の前で一角さんが死にそうになっているのを見ていた弓親さんは。

    「ご馳走様」
    「あ、ハイ……」
     いつの間にか空になっていたカップを弓親さんから受け取る。
     机の上に置かれたままの俺のコーヒーは、すっかりぬるくなってしまっていた。
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