犬を飼う/キラ門「犬を引き取ってもいいか」という声に門倉は本から顔を上げた。換気扇の下でキラウㇱが食後の一本を燻らせている。
「犬?」
頭の中を姿のぼやけた犬が駆け回る。
「山の仲間が引き取り手を探してるんだ。知り合いが亡くなって飼えなくなったって」
「犬なぁ……」
「今は近所の人が分担して世話してるらしいけど、それも限界あるだろ」
だから門倉さえ良ければ引き取りたい、とキラウㇱは続けた。
「うーん……どんな犬?」
「雑種の中型犬、十歳のオス」
「犬の寿命ってどんくらいだっけ」
「十五歳くらいだ」
「あと少しだな……」
「そうだ。だから引き取る人がいない」
まぁそうだろうな、と思う。
この家に犬がいるのを想像する。十歳ならそれなりに落ち着いて、遊びたい盛りでもないのだろうか。毎日餌をやり、散歩に連れて行く。慣れてしまえばなんでもない事のように思われた。十歳の犬。どんなに長生きしたとしてもあと十年もないだろう。
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