左利き/キラ門「門倉は包丁使うの下手だな」とキラウㇱが手元を覗き込んで言った。まだ芋の一つを剥いたところだった。形の不揃いな芋で、皮が剥きづらく、たしかに分厚く切り落としてしまった部分がある事は否めない。
「せめてピーラーを使え。野菜が泣くぞ」
引き出しから取り出したピーラーを手渡され、またシンクに向き直る。皮がシンクにぱたぱたと落ちていく。芽を取るのは苦手だ。隣ではキラウㇱが真剣に玉葱を炒めている。引っ越しの荷解きがあらかた終わり、さて夕飯はどうしようかとなって、「まあ簡単に作れるのはカレーだよな」と言ったのは門倉だ。「たしかにな」とキラウㇱは言って、まだ開けていなかった段ボールからこの芋を取り出した。箱で買っていたのをそのまま運んできたらしい。玉葱も人参も出てきた。結局カレールーと肉だけ買いに出たのでそれだったら惣菜を買っても良かったと思わないでもなかったが、同居して初めての食事が協力して作ったカレーだなんていかにもらしくて黙っていた。
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