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    sstygo12

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    sstygo12

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    ゆきさん主催のパロアンソロジーの個人寄稿サンプルです
    完成した御本を一足お先に拝見いたしましたが本当に分厚い最高の文庫本でした……!
    ぜひ!!!!!の思いを込めて!!

    たぶん本能【サンプル】 舌を舐めたらざらっとした。
     これまでにはなかった初めての感触に驚いて、しかし「そういえばそうか」と納得したら今度は徐々に感動が湧いてきた。もう一度確かめたくて唇を合わせて舌を差し込み、同じく細かな突起の生えた純太の舌を探ってみる。
     マジックテープのザラザラな面みたいに、ふたりの舌が合わさった。けれど絡ませ合うには噛み合った突起に抵抗が生じてしまい、スムーズにいかない。少し煩わしく思ったがこれはこれで珍しい感覚で、もっと知りたくて純太の口の中を探った。
    「ん……」
    「……痛い?」
     身じろいだ純太に気付き唇を離すと彼は「大丈夫」と照れた顔で小さく笑った。「すごくね? これ。こんな感じなんだ、猫って」
     ああ、すごいな、とオレも頷く。純太の髪を分けてピンと立った小さなネコ科動物そのものの耳を撫でると、その三角形がひくひくと揺れた。
    「おお、動く」
    「触られるとくすぐったいかも」
    「音も聞こえるのか? 耳はこっちにもあるのに」
     人間本来の耳もこれまでと同じ場所にある。ふにふにと耳の殻を触ると今度も純太は「くすぐったい」と肩をすくめて笑った。いつものことながら、正直、くすぐったいからやめてくれという表情ではない。戯れの延長で「やめる?」と聞くと純太は「……どうしよっか?」なんて甘い視線を寄越すから、結局オレが駆け引きに応じることはなく、あっけなく「やめない」と押し倒すのがいつもの流れだ。
     ——そもそも、今何が起きているか、だが。
     昨晩いつもどおりにベッドに入り、目覚めたら隣で眠っている純太に猫らしき毛足の長い茶色い三角の耳がついていた。こんなものを付けて眠ったっけ、と彼の頭をわしゃわしゃと探ると、どうやら付け耳ではなく頭皮と一体化して生えている。……なんだ、これは。
     純太の体を確認しようと布団をめくると、「さむい」と眠ったままの純太が体を縮こませたので変化のなさそうな上半身に布団をかけてやり、今度は体の下半分を触って確かめる。何も変わったところはなさそうだと思ったそのとき、純太の腰のあたりで何かが動いた。スウェットの上から腰のあたりを触ってみると、普段ならばそこに存在するはずのないものの手応えを覚えて少し怯んだ。いよいよ自分一人で把握しきれなくなり、純太の体を揺すって起こす。
    「純太、起きて」
    「ん……ねむい……」
    「ちょっとズボン下げていいか」
    「ん~……、えっちする……?」
    「いや、そうじゃなくて。そうじゃないこともないけど、そうじゃなくて、ちょっと……」
     純太が寝返りを打ちこちらに向き、まぶたを擦って薄く目を開けた。
     まだカーテンの引かれた薄暗い部屋に、黒くて丸い瞳孔が浮かんでいる。猫みたいだ、と思ってから、少し背筋が寒くなった。
    「後ろ、触らせて」
     うつぶせに転がしてスウェットのズボンに手を突っ込むと、想像した通りの太さの、けれどヒトの体にしてはありえない手触りの生温かい何かが生き物みたいにうねうねと動いた。
    「うわっ!」
    「おい、うわって何」
    「脱がすぞ」
    「なになに、そんなに我慢できないの」
    「……っ!」
     思わず息を呑んでしまった。下ろしたズボンから茶色い毛色のしっぽが出て来て、ぱたぱたと動いた。
     知らないうちに純太が自分で良からぬ玩具の類いでも仕込んだのかとしっぽが繋がっている場所をおそるおそる確認すると、それは尾てい骨のあたりから生えているとわかった。何かを差し込み装着したわけではないらしいと安堵し、そして少しだけ残念な気持ちにもなった。それから、こんなものが生えていて大丈夫なのか、と遅れて不安が湧き上がる。一体どうなっている……?
     機械仕掛けではなくスムーズに動くしっぽを捕まえると、純太が甘い声を上げた。
    「……純太が猫になった……」
    「一、寝ぼけてる?」
    「ぱっちりしてる」
     ふわふわした毛並みのしっぽを握って撫でると、純太が目を閉じてたまらなそうに吐息を漏らした。
    「ん、もうちょい……なんだろ、どこがいいのかわかんねえな……。一、今何してんの……?」
     うつぶせたまま、純太が瞳をとろけさせてこちらを見上げた。なんだかよくわからないけれど気持ちがいいらしい。どこを触られているのか本人の感覚ではわからないようだが、しかしたしかに昨日までは持ち合わせていなかったものだ。未知の感覚で当たり前かもしれない。
    「……もしかして、ここか?」
    「あっ、あ、そこ、それ……ッ、」
     しっぽの付け根を指先でとんとんと軽く叩くと純太の腰が跳ねた。……猫か。本当に猫なのだろうか。
    「んっ、あ、やっ、あッ、待って、何、待って!」
     ビクビクと体を震わせる純太が無理やり体を起こし、腰を叩くオレの腕を掴んで制止した。頬が紅潮して息が上がっている。とろけて濡れた唇に思わず口付けると、一度キスを受け入れた純太が唇を離して息を整え、瞳を潤ませてこちらを見た。
    「なに? 今の……って、え?」
    「?」
    「一、猫じゃん」
    「……は、」
     言われてまさかと頭に手をやると、ふわふわの猫の耳らしきものが自分の頭にもくっついていた。たった今自分の目で純太の体を調べたからそうだとわかるものの、知らずに触れていたら恐怖に駆られただろう。あれが自分にも付いている。猫の耳が。
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