『オータム・レトロニム』 春は出会いの季節で、夏は思い出が色濃く残る季節、冬は終わりと始まりの季節。じゃあ、秋は何の季節なんだろう。自分の人生のアルバムがあるとすれば、秋のページだけ少ないんだろうな。不凌忠仁は自転車で通学路を走りながらそんなことを思う。
高校に入学して半年が過ぎ、この道も随分と見慣れたものだ。二学期が始まって一ヶ月が経とうとしていた。
「お前、山岳部に入らないか?」
放課後、職員室。忠仁は「ハァ?」と怪訝そうな声を出した。担任の陣之内亮二は、いつもの軽薄な笑みを浮かべて続ける。
「山だよ、山。登んの」
「それくらい俺様にだってわかる」
「そうか、それじゃあ話は早い」
「早くない!」
「何回も言ってんだろ? オカルト部を作りたきゃ、あと二人集めてこいって。うちは三人いりゃあ部として認めてんだから条件優しい方だぞ」
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