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    BQQatack

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    ドロディス自陣の話
    洗濯物を仕分けるとき、あまりにも古いTシャツを捨てるべきだと主張するサピアと、捨てたくないアフィーシュ

    「このシャツ、もうそろそろ捨てた方がいいだろ」
     洗濯物の山を仕分ける最中、こちらを振り向くベンジャミンの手に、くたくたのTシャツが握られていた。反射で頷きかけて、「いや待って」と前のめりに彼の方を見る。
    「それは捨てないで」
    「なんで? もう襟元は伸びきってるし、色も褪せてきてる。いくら寝間着でもだらしないぞ」
    「いいじゃん、寝間着なんだから。それに肌触りもいいし、水もよく吸うんだ」
    「タオルじゃないんだが」
     呆れた顔のベンジャミンに、「貴方が最初に買ってくれたものだから」と言って、彼の手からシャツを取り返す。これでも五年間、きちんと適切な洗濯と干し方を施してきたのだ。五年選手にしては状態がいい、のだが。
    「……もしかして、五年間ずっと、寝るときはそれで?」
     眉をひそめる彼に、うっ、と怯む。彼の不快な表情には、きっといつだって慣れない。「悪い?」とそっぽを向くも、内心少しだけ嫌な動悸がした。彼の気分を害するのはいつだって嫌だし、彼からもらったものを捨てるのも嫌だ。ベンジャミンは「愛着が湧くのも分かるけど」とアフィーシュに向き直り、あぐらをかいて腕組みをする。
    「捨てなさい。お前に五年間着られたなら、十分幸せなTシャツだろ」
    「Tシャツに気持ちなんてない。ここで優先されるべきは俺の気持ち」
     いい加減アフィーシュも多少は学習したので、きちんと自分の主張をする。そうでなければ、この男はアフィーシュの気持ちや行動を彼の視点で決定してしまうから。いや、そういう風になったきっかけは、自分の態度だったのだけど。ベンジャミンは少し意表を突かれた顔をして、まじまじとアフィーシュを見た。居心地が悪くなって、正直怯む。
    「……とにかく、これはまだ着るから」
     彼の手からぱっとTシャツを奪い返し、いそいそと自分の衣装ケースへと仕舞う。ベンジャミンは呆れた声で「また新しいのを買ってくるよ」と片膝を立てて立ち上がった。彼は仕分けたタオルをケースに入れながら、小さくぼやいた。
    「次はちゃんとしたやつにしよう。最初から五年も着るって分かってたらな……」
     ぶつぶつ呟くベンジャミンを後目に、自分の衣装ケースを漁る。このケースに入っているのは、五年間彼と一緒に過ごして、彼から与えられた衣服ばかりだ。空白の八か月の間、思い出にすがってばかりだったけれど。アフィーシュの涙を何度も吸った白いシャツを取り出して、襟元に入った刺繍を撫でた。カラフルな色糸で縁取られた唐草模様をじっと見つめていると、「それも古いだろ」とベンジャミンがこちらを覗き込んできた。やっぱり、捨てろって言うのかな。じっと彼を見上げると、彼は「それも古いよな」と言ってあっさり引いた。目を瞬かせるアフィーシュに、彼は苦笑いの表情で「お気に入りなんだろ」とアフィーシュの頭を撫でる。乱暴な手つきが大型犬を撫でるみたいで、心地よかった。俺のこと、犬か何かだと思ってるのかな。ふと浮かんだくだらない考えのまま、彼に腕を伸ばす。彼はアフィーシュを引き寄せ、抱きしめてくれた。逞しい背中に手を回すと、「いい子だ」と低く囁かれて、腰骨の辺りが痺れた。
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