ひめちゃん先生と黒死牟 1おめめのいっぱいあるひとが、さくらのきのしたにいるよ、ひめちゃんせんせい。
毎年毎年、違う子から同じ報告を受ける。それは決まって桜の花時、葉桜に変わる頃には目撃証言は収まっているし子供達も大人も忘れる。けれど今回は一人の子供が痙攣を起こすほど怯えてしまって、桜の木の下の「おめめのいっぱいあるひと」がどうにかならないか園長から相談を受けたのは、体格と性別と経費節約の他にはあるまい。
大樹。桜の、園は大事にしている。運動場とは別の庭先にある見事な枝ぶりを添木で支え、そこで記念撮影をしたいと望む父兄が次々子供を連れ込んで撮影する程で、桜には柵が立てられている。
その柵向こうの枝ぶりの下に「おめめのいっぱいあるひと」が茫洋とした姿で佇んでいた。桜の花の満開の下、服装が古風だった。袴の帯が白いことで、時代考証に一家言ある人なら凡その時代特定が出来ただろう。しかし悲鳴嶼にはその知識は無かった。
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