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    shian17vat

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    shian17vat

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    とあこいサンプル



     おや、と彼女は呟くと、こてん、と首を傾げたままカーヴェを見つめてきた。その動作の際に、耳についた装具が揺れる。薄桃色の、この国では見たことのないその左右につけられた装具は稲妻と璃月で使われる扇の形を模していて、その片方には三つ巴の紋が刻まれている。
     異国の女だ。白と赤を基調に幾重も纏ったそれは巫女装束と呼ばれるものだった気がするが、果たして巫女というのは大胆にも太腿から下部を露出するものだろうか。印象的なのは、薄紅の長い髪を彩る大ぶりな真鍮の輪飾り。似たようなものが豊満な胸元にもあしらわれている。スメールの苛烈な太陽と湿気の中にあってなお、彼女は悠然と佇んでいる。アラバスターと見紛う肌に少しの汗もかいていない。その周囲だけ時間の流れが異なるのだと言われても納得できてしまいそうだ。
     細い指を、紅をはいたかのような艶やかな唇に当てたまま、思案の風情だ。凝視されることの困惑は隠せないのに、彼女の神の目と同じ色を宿す双眸から目を離せない。
     鈴の音と共に彼女が一歩ずつ近づいて、カーヴェの周りをくるくると移動した。その長髪がたなびくごとに漂うのが、なんだったか――そう、緋櫻毬の香りだ。どこか甘酸っぱく、どこかほろ苦い、不思議な芳香と共に、やがて彼女はころころと笑った。
     細められた瞳は婀娜めいて、こころが高鳴りを生む。蠱惑的に、愉快そうに、朱唇を弓形に歪めた女は、指先でなにかを形作るとそれを鼻先に当ててきた。親指と中指と薬指を合わせ、ほかの二指を立てた独特な手遊びだった。
    「汝、憑かれておるな?」
    「――は?」













     層岩巨淵を越えてスメールの地に足を踏み入れた途端、旅人たちを歓迎したのは突然のスコールだった。水滴がぽつん、ぽつん、と落ちてきたと思ったら、一気に水盆をひっくり返したような土砂降りに早変わりだ。多くの国を旅してきたとはいえ、このアクシデントはまずい。慌てて雨を凌げそうな場所を探し、そこでしばらく止むのを待つことにした。
    「さっきまでいいお天気だったじゃないか!」
    「ほんとにね。雨の気配すらなかったけど」
     小さな旅の同行人が空中で地団太を踏む。少ない荷物の中からタオルを取り出し、濡れた肌や衣服から水分を拭った。他にも濡れて困るものはないか確認しているうちに、雨は一気にひどくなって視界は真っ白だ。
     運よくアランナラの住居があったのは僥倖だった。この丸い住処に棲んでいたであろう森の精は、今頃ヴァナラーナにいるのだろう。雨宿りのお礼に夕暮れの実をふたつほど残していけばいいだろうか。腐ってしまっては意味がないが、かれらの住居からもらったニンジンやダイコンはどれも新鮮だったので特に問題はないのかもしれない。
     雨を落とし続ける雲は真っ黒で、なかなか動きそうにない。ガンダルヴァー村へ行く用事があったのだが、完全に足止めを食った。地図上の距離は近いと言えど、レンジャーたちが日々の見回りを行っているほど、雨林は地形も複雑だ。雨で地盤もぬかるむだろうし、足を取られて滑落でもしようものなら、異形の耳を持つレンジャー長にこっぴどく叱られるに違いない。
     旅人を呼びつけたのは彼の方だから、この雨で身動きが出来なかったのだと言えばわかってくれるだろう。
     しかし、雨のにおいもなく、風の冷たさもなく、こんないきなり天候が変わるものだろうか。


     軽食や仮眠を取っていると、少しずつ雨の勢いが弱まってきた。空模様も真っ黒から灰色に変わりつつある。これは止むのも近いと荷物をまとめ、夕暮れの実をふたつ切り株の上に置いた。
     程なくして雨雲は遠のき、陽光に照らされて森はきらきらと輝いた。雨粒によって光が反射されただけでなく、空気中の塵が地面に落とされたためでもある。これは確かに真珠かと聞きたくなるな、と友人の一人が教えてくれた説話を思い描きながら、旅人は一路ガンダルヴァー村へと足を急がせた。
     エルマイト旅団やキノコンたちとの不要な戦闘を避けながらやってきた村の入り口で、見回りに向かう数人のレンジャーたちが旅人に気付いて挨拶を寄こしてくれた。ティナリはいつもの家にいるらしい。
     ティナリは机に向かってなにか書類をまとめているようだった。集中しているところに声をかけるのを戸惑っているうちに、彼の耳がそよぐ。次の瞬間には、ティナリが旅人を振り返っていた。
    「やぁ旅人。待っていたよ」
    「仕事中にごめん。あと遅くなってしまった」
    「旅の途中である君をこちらの都合で呼び止めたんだから、気にしないで」
     朗らかに微笑むと、彼は旅人を家の中へ迎え入れた。ティナリの家はいつも色んな種類の草花の匂いがする。レンジャー長でもあり、教令院生論派の学者でもある彼らしい一面だ。棚にはいくつもの植物の花や根があって、乾燥していたり粉末状だったりと形態は様々だ。フボクロの店内にも似たようなものがあるのを思い返しているうちに、はたと思い出したことがある。
    「そうだ、ティナリ、申し訳ないけど服とタオルを干してもいい? ここに来る途中で雨に降られてしまって」
    「急がなくてよかったのに。君とパイモンは? 濡れてないの?」
    「多少濡れたけど大丈夫」
    「層岩巨淵を越えた矢先に降られたんだぞ!」
     ティナリに案内された場所で濡れたものを干しながら、パイモンが経緯を話している。さっきまでの雨が嘘のように晴れているから、すぐに乾くだろう。室内ではティナリがブランケットと温かいお茶菓子を用意してくれていたが、彼の表情は曇っていた。
    「今日は雨が降るなんて予報はなかったはず……旅人、場所は分かるかい?」
    「え、うん……多分」
     おそらくこのあたり、というところを地図で指差すと、ティナリは得心がいったように頷いた。
    「ここ最近、空模様や風向きから推測できない、突発的な雨が続いているんだ。君たちが遭ったのは、多分それだね。場所も時間もまちまちで、予測しようにもできないから、キャラバンの行程とかに影響が出ていてね」
    「みんな困っているんじゃないか?」
    「間接的には、荷物が遅れたり、迂回路を通らないといけなくなったりしている。でも、どうこうしようにもデータが足りないから、素論派のいくつかのグループが地脈の検証から始めるって聞いているよ」
     では、そのうち異常気象も収まるに違いない。旅人はティナリが用意してくれた菓子を口にした。ハッラの実の香りがするクッキーは、その香ばしさが特徴的だ。
     棚からいくつかの書類とノート、乾燥した種を取り出したティナリは、それらをまとめて袋に入れている。
    「君たちに頼みたいのは、これをスメールシティのロハウェイに届けて欲しいんだ。覚えてる? 君たちが最初にスメールに来たとき、草神様に会いたいなら、って言って案内した学者がいるだろう?」
    「おう、覚えてるぞ! 確か、入り口近くに住んでる人だよな?」
     そうだよ、と肯定が返る。
    「異常気象とは別件だけども、雨林の方では見たことのない植物をよく見かけるようになってね。これはその一部と、レポートだよ。彼に渡してくれれば、それで任務完了だ」
     先払いの報酬を受け取ったパイモンが、満足そうにくるりと回る。友人の頼み事くらい無償でいいのに、と不満そうにすると、ティナリは首を横に振った。
    「冒険者協会を介していないだけで、正式な依頼なんだ。友人だからってなんでも引き受けてちゃだめだよ。カーヴェじゃあるまいし」
     引き合いに出された友人の言動が目に浮かぶようで、旅人は思わず苦笑した。
     そういえば彼にも、彼の同居人にも、しばらく会っていない。スメールシティに行けば会えるだろうか。


     その日はガンダルヴァー村で一泊し、旅人は翌日スメールシティに到着した。村から川を渡って真っすぐに伸びた道沿いに進めば、大樹に支えられた知恵の都が見えてくる。
     港は以前見かけたときと同じ喧噪に包まれていたが、右へ左へと走り回っている人の数は少なく見えた。作業をしている人たちの顔には余裕がなく、互いに一言二言会話をすると、息つく間もなく別の場所へ駆けていく。貿易船の船員たち、教令院の事務員たち、それから彼らの護衛を担うエルマイト旅団や周辺住民の声など、いつだって港は活気にあふれていたはずだ。
    「なんか、あんまりいい空気じゃなさそうだな……」
    「そうだね。用事が済んだら、キャサリンかエフェンディに手伝えることがないか訊いてみよう」
     そのためにも旅人はロハウェイの元へ急いだ。スメールという国に来て間もなくのこと、まだアーカーシャ端末が教令院によって恣意的な運用をされていたときに出会った学者は、その当時と同じ場所にいた。ティナリから、と言うと、ぎくりと肩を震わせたが、旅人が出した荷物を見ると緊張は解れたようだ。
    「前回もそうだったが、君たちやティナリは相当わたしの胃を傷めるのが好きらしい」
    「お前の誤解だろ!」
    「もちろん、そうとも言うが……」
     ロハウェイは荷物を広げ、中身の確認のため目を滑らせた。ぺらりぺらりとノートを捲るのが随分と早い。
    「うん、すべて確認した。ご苦労だったね、旅人、パイモン」
    「どうってことないぜ! それより、港の方でなんかあったのか? やけに人手が少ないように感じたけど……」
    「いや、港だけじゃないんだ。なんというか……ここ最近、スメールシティはとても一言では言い表せないような異常が頻繁に起きている。ビマリスタンに運ばれる人も少なくなく、あそこは卒業生や研修生まで動員して、その治療に当たっていると聞く」
     ロハウェイの顔色が次第に暗くなっていく。旅人がもう少し詳しい事情を聞こうとしたとき、すぐ傍の通路で悲鳴が上がった。急いでそちらの方へ身を翻すと、屋台の積み荷がいくつも倒されており、騒ぎの中心には人だかりが出来ていた。屋台骨の上に少年がひとり座っている。落ちれば怪我をしてしまう高さだが少年は一向に気にする気配がなく、くるくると周囲を見回して非常に落ち着きがない。
     危ないから降りてらっしゃい、と泣き声で言ったのは彼の母親だろうか。しかし少年は一切耳を傾けず、それどころか別の屋台の屋根に飛び移った。再度上がる悲痛な叫びを余所に、少年は軽快にバランスを取っている。四肢を目いっぱい使って、背骨を大きく膨らませている。おおよそ人間の動きではない。訓練された兵士や、神の目を以て身体能力を向上させない限り難しいはずだ。
     少年は突如ぱかっと口を開いた。それ以上開いては顎関節が外れてしまうというところで、痙攣を起こす。――違う、彼の喉が異様に上下していた。その喉から発せられるのは人の言葉ではない。かといって動物の鳴き声でもない、カエルの鳴き声に似ているような、なにかよく分からないものの言葉か声を真似ている。ゲ、ゲゲ、と絶え間なく鳴る少年の声に、とうとう彼の母親が失神した。周囲の人間が慌ててそれを支えたが、少年はそのことにすら意識を割かない。
     このままでは少年の呼吸も危ぶまれる。昏倒させた方がいいか、と旅人が一歩前に出ようとしたとき、少年はぴたりと動きを止めた。当然鳴き声も止まったが、彼の身体は糸の切れた人形のように力なく倒れていく。駆け付けた三十人団がそれを受け止め、その呼吸を確認した。幾分脈拍は弱まっているが、安静にしていれば大丈夫だろうと判断され、彼は母親と共にビマリスタンへと運ばれていった。
     その場に集った人々は散乱した商品や調度品を片付けながら、親子の無事を祈りあう。旅人の後ろではらはらとパイモンが揺れていた。
    「……これが、今スメールシティ内で多発している異常だ」
     ロハウェイが沈痛な面持ちで言う。
    「いつからだったのか、もう誰にも分からない。ある人はいきなり砂を食べ、ある人はああして人の言葉を話せなくなり、ある人は昏睡したままだ。学者から庶民、商人など身分の有無にかかわらず病のように発症している。いまや教令院は全学派が団結してこの事態の解決に尽力している。それだけではない、生態系や気象にも変異が出ている。……いっそ素論派の調査で、地脈に異常ありと判断されるだけでも楽なのに」
    「じゃあ、地脈の異常じゃないのか?」
    「まだわからない。判断するのは時期尚早という話だ」
     それにしたって、事態は旅人が思っている異常に深刻だ。ロハウェイと別れ、冒険者協会とレグザー庁の両方に顔を出した。どちらとも旅人の訪れを歓迎してくれたが、とくにエフェンディからは疲労の色が濃く見て取れた。旅人は両者と話し合い、事態が収束するまでスメールに逗留することに決めた。急ぎの依頼は特にないし、それなりの報酬も出る。宿泊先に関しては冒険者協会が手配してくれたので代金もかからない。
     身一つでは広いスメールシティ内を網羅することが出来ないので、まずは一日おきに手伝う場所を変えることにした。初日は港周辺で、次にスメールシティ入り口近くの露店が多く軒を連ねるところで。冒険者協会を介した依頼や、レグザー庁に寄せられた住民からの頼み事も極力手伝うようにしたが、如何せん数が多い。人手が足りなくなっている証拠でもあるし、被害の大きさを物語っている。
     人手に関しては常に募集をかけているというが、みないつ自分が罹患するか分からない病のようなそれを警戒して表には出たがらないそうだ。とはいえ室内にこもったから無事であるという保証はどこにもなく、結果として何かしらの解決策を待ち望んでいる状態が続いていた。
     グランドバザールではズバイルが倒れたという。その影響でショーは休止せざるを得なくなった。
    「じゃあ、ニィロウもあちこち駆け回ってるのか?」
    「うん、わたしに出来ることは、ちょっとしたお手伝いなんだけれども、それでも、なにかせずにはいられないから」
     昼食を共に取りながら交わした会話は少しだけだったが、旅人は彼女にビマリスタンの手伝いを頼むことにした。朝方キャサリンから通達があったのだ――教令院およびスラサタンナ聖処から正式に依頼があったと。ニィロウが自ら依頼を代わってくれたので、旅人とパイモンは教令院までの坂道を上る。道中いるはずの学生や、入り口付近で案内をしてくれるシトの姿がない。彼らはどんな事態に巻き込まれてしまったのだろう。
     入り口をくぐった先のホールでは、見知った顔の学者が旅人を待っていた。マハマトラに所属するアーラヴは旅人に駆け寄る。彼と少しの歓談を経た後、その案内に従ってスラサタンナ聖処へ辿り着いた。
     草神の御座所であるその場所は、常の静謐で保たれていた。護衛をつとめる三十人団の脇を通り抜け、重たい扉に手をかける。
    「いらっしゃい、旅人、パイモン」
     門扉から少し下った先、草の葉を象ったような球形の柱の奥に、花の形をした台座がある。草神ブエルは、平生そこからスメール全土に住まう人々の意識を渡り、その夢と知恵を集約させている。
     彼女を指すいくつもの呼称の中で、旅人が主に使っているのは彼女が最初に名乗った名前だ。
    「ナヒーダ、来たぞ! それに、セノも、アルハイゼンも!」
     パイモンに呼ばれた片方は挨拶を返してくれたが、もう片方は目礼を済ませただけだ。変わりがないというのは、この場合は良いことだ。半眼になるパイモンをよそに、知恵の神は言葉を紡ぐ。
    「役者は揃ったわね。旅人、貴方たちがこの国へ来て、もういくつか事態は把握しているでしょう。そのために力を貸してほしいの」
    「もちろん。スメールシティ内で緊急性の高い依頼から片付けたから、少しは余裕が出来たと思う」
    「ありがとう。そのことに関して、六大学派内での報告を簡単にまとめてくれる?」
     水を向けられたアルハイゼンが静かに口を開いた。
    「現状、強く異変が見られるのは、生論派、素論派の分野だ。とくに異常気象と生態系の変化に特異が見られる。他、明論派が言うには星の一部が変化したらしいが、彼らは常に他人の星図を書き換える悪癖があるから、これはさほど重要ではなかろう」
    「妙論派はどうだ」
    「解明できていない秘境や遺跡への調査は一度中止にさせた。百年前と同じことが起こっては、知識の意味がないからな。因論派、知論派においては直接的な関与はない」
     セノが俯いて思索にふける間、旅人はスメールに入ってすぐ遭遇したスコールの件を話した。ティナリに告げたものと同じ内容だったが、大まかな位置を地図に記入する。
     アルハイゼンの手許にある地図に新たなマークが記された。他にもキャラバン宿駅、パルディスディアイ周辺にマークはあったが、総じて人の密集しているところに集中している。
    「異常気象と呼べるものが起こりうるとき、大抵は相互関係が生まれるものよ。例えば雨雲が一定の場所から動かなかったり、風の影響である地方では乾季が長く続いたり。だというのに、今回のこれはあまりに色んな地域を横断し続けている……」
    「生態系の変化がそれに影響を及ぼしているとも考えにくいな」
     ティナリも研究していたが、どんな変化が生じているのだろう。旅人が疑問に思ったそれに、アルハイゼンが答える。
    「そうだな……俺が見たところでは、瑠璃百合が咲いていた」
    「瑠璃百合⁉ 璃月でも限られたところにしか見られない貴重な花だぞ⁉」
    「えぇ、本来スメールの地ではほぼ根付かないはずよ」
    「そうだ、ビマリスタンに運ばれた人たちはどうしているの」
     今までにない行動を取るようになった人たちは、なにか特別なものを食べたり飲んだりした結果なのだろうか。聞けば、そういう共通の要因は見受けられなかったらしい。老若男女、貴賤を問わず、突発的に襲い掛かってくるのが特徴で、神の目を持てばこの事態から逃れられるというものでもないときく。
    「現にカーヴェが倒れた」
     事も無げに言うものだから、パイモンの声が一層高くなった。
    「いつものように酒場で飲んだくれていたところ、いきなり意識を失い、そのまま目が覚めない。医者から診療を受けたときに脈拍呼吸ともに異常がなかったから、今は家にいるはずだが」
    「そういう大事なことはもっと早くに言えよ‼」
    「それでなにが変わる? 俺たちに課せられたのは、一刻も早く事態を鎮圧することだ」
     アルハイゼンは淡々と事実のみを告げるが、それはカーヴェを心配していないという証左ではない。むしろ彼の発言通り、この事件を解決に導くことが、カーヴェを救う手立てとなる。
    「……直接、関係があるとはまだ確定していないが」
     しばらく沈黙していたセノが、考えをまとめたようだ。促され、地図に指を滑らせる。
    「マハマトラ内で警戒するべき研究に携わっている者がいて、彼が拠点にしていた屋敷を近々訪問する予定だった。日程を早めようと思う。お前たち、一緒に来るか?」
     行く、と即答したパイモンに合わせて、旅人も頷いた。アルハイゼンはと首を巡らせれば、彼も首を縦に振った。
    「俺も同行しよう。……少し、気になることもある」
    「そうやって、会議や書類から逃げようとしていないか?」
    「職務怠慢はすべきではない。もっとも、今は被害に遭っている学者も多いから、申請書の数は減って有難いことだが」
    「そういう考え、オイラよくないと思うぞ!」
     空中で地団太を踏む仕草をするパイモンの横で、知恵の神はモニターに小さな手のひらを合わせた。それが済むと、彼女より背の高い三人を順番に見つめていく。
    「どうかお願いね。わたくしの賢者たち 」
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