指についたものを舐める バレンタイン当日の夜。支部で帰り支度をしていた時、杁に家に来ないかと誘われた。その瞬間、コイツが季節行事を大事にするタイプだったことを思い出す。
まずい。バレンタインは女性が用意するものだと固定概念に囚われていて、自分は何も用意していない。そういう行為では自分の方が受け入れる側だが、女になったわけではないとずっと思っていた。
「……俺はチョコを用意してないぞ」
後ほどガッカリさせてはいけないと正直にバレンタイン行事をする用意がないと告げる。そうしたら、杁はただおかしそうに笑って「ホワイトデーに三倍返しを期待してる」と言った。
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バイクに乗って杁の家にやってきた。かねてより俺を招く予定があったのか、想像よりも部屋は散らかっていない。だからといって綺麗ではないが。俗に言う妥協点である。
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