二人の夢のガンッと強い衝撃を頭に受けて目が覚めた。
寝相はいいと思っていたのにベッドから落ちたらしい。
流石に起き上がって頭をさするとたんこぶみたいなのもあるし結構痛かった。
何かを忘れた気がするけれどレオが来る前に、
ふと首を傾げる。
迎えなんてきただろうか。
いや居たはずだ、俺の大切な。
時間を見る。
余裕で遅刻する時間で普段ならまあいいかと思うが何故か胸騒ぎがして足早に支度を済ませる。
結局迎えはこないまま学校に着くとあまりにも普通だった。
少し息の上がる俺を見て珍しいと笑うくらい、俺の遅刻を咎めるだけの、あまりにも日常だった。
そわそわとした不安な気持ちが胸に広がってじわじわと蝕む。
放課後までそれは続き、それでも未だ来ない迎えに焦りを感じて隣のクラスに駆け込むと綺麗な紫の瞳がこちらを捉えた。
「お、凪どうしたんだ?」
「レオ」
そう名前を呼んで歩み寄ろうとしたレオの顔はちょっとやつれていて足が止まる。
「凪?」
こちらに近づくレオの手を取ると驚いたように目を見開いて、それから俺の手を振り払った。
「ごめん、これから帰って勉強しなきゃなんだ」
そう作り笑いを残したレオを俺は追いかけられなかった。
それから1人で家に帰って、やはりなにか忘れている気がしたけれどもなにもわからなくてまた眠りについた。
次の日も、そのまた次の日も普通に来てしまい、あまりにも普通な日常が流れていく。
違和感を感じる度に頭痛もして、なにに違和感を感じるかもわからないまま日々を浪費した。
「ねぇレオ、なんで俺を避けるの」
珍しく1週間程粘ってやっとレオを捕まえた。
目も合わせてくれなくて『御影 玲王』としても珍しいくらい視線をさまよわせて俺から逃げようとした。
「ねぇレオ、俺何かした?」
「何も、なにもしてない」
俯きながらやっとレオから聞けた声はあまりにもか細くて消えそうな声だった。
「俺に構うなよ、お前は明日から青い監獄に戻るんだろう?」
そう言われて口から「は?」とだけ声が漏れた。
「俺は、選考落ちしたからもう夢も何も無いんだよ!
お前は残ったんだから明日からまた戻るんだろ!」
少しだけ震える声でそう言われて何故と疑問だけが漠然と広がった。
「なんで」
そう思ったままに口にすると頬に痛みが走った。
はじめてみたレオの涙に俺は何も出来なくて立ち尽くしているうちにレオは走り出した。
その日の夜夢を見た。
俺はフィールドの上で誰かが掲げたトロフィーを見て、その俺の隣には誰も居なかった。
慌てて探してもいなくて、観客席にも、どこにも、レオはいなくて。
自分でも思うくらい焦って走ってレオを探したのにどこにも居なくて。
絶対このままじゃだめだって、謝らなきゃ。
違う、きっと謝ってもレオはきっと笑って流してしまう。
ちゃんと何がダメか聞こう、何がしたいか言おう。
だってきっと待ってるから。
いつしか真っ暗になった通路を歩く。
「なぎ」
とどこからが聞こえた声の方に。
絶対こっちだ。
漠然としているがあっているだろう勘を頼りに歩いて手を伸ばす。
「なぎ……」
そう呼ばれたから手を握り返した。
そしたらその手があまりにも驚いたように跳ねて、それを見ようと俺は目を開けた。
目にいっぱいに涙を溜めたレオがそこに居て「泣かないで」って言おうとしたのに全然声でなくて。
レオが俺の手を握りながら慌てて何かに呼びかけていた。
「泣かせてゴメンネ」
やっと声を出せた時にそれを言ったらレオに「ばかやろー」って笑われた。
「お前車に轢かれかけたんだぞ。というか、ああもう!」
泣いてるのか怒ってるのかもよく分からないレオに説明されてああとなった。
車が突っ込んできて、轢かれそうになったレオを思いっきり引っ張って抱き寄せたら後ろの花壇に頭を打ったらしい。
大怪我にはならなかったが打ちどころが悪く1週間寝たきりだったらしくて起きたらもう身体バッキバキ。
レオは「俺を庇ったせいで凪が目を覚まさないかと思った」って泣いてもう散々。
寝ている間になにか夢を見た気がした。
本当に本当に最悪の夢。
結構気分最悪の目覚めだから嫌な夢だったんだろうけど、あれは夢だから。
レオの手を取ってまた歩こう。
2人の夢の果てまで、一緒に。