雨天 23時 吐きそうなほどに熱された空気はすっかりと冷めて、辺りの騒音は冷気と共に足元へしずんでいった。
「閉店時間です」、とウェイターが申し訳なさげに声をかけて来た。
僕は反射的に「すみません」と言ってすばやく席を立った。
なぜ僕が謝ったのかはよくわからない。
帰りの電車は人もまばらで、窓にぽつぽつと映る人影を眺めながら余計な事を考えていた。
帰り道の街灯は切れかかっていて、いつもチカチカとやかましい。
部屋に着くとすぐに蛇口をひねり身体を洗う。排水溝に呑まれる泡と抜け落ちた僕の髪の毛を、なんとなく見つめていた。
僕の部屋独特の、重たく、異様に眠たい湿度の中で意識を淀ませた。
どこから入って来たのか、耳障りな羽音が聞こえた。
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