天使のたまご宮治は昨夜、『人を拾う』という、人生になかなかない経験をした。しかも背中に大きな翼のある人間だ。
最近彼は調理師学校に通う傍ら、修行のつもりで入った居酒屋のバイトで突如ホールに出されることになり、いっそ辞めようかと迷っていた。
バイトを始めて2年。決して仕事が出来ないわけではないと自負している。居酒屋にありがちな雑多なメニューは全てマスターしたし、どこかの高級料亭から流れてきたと噂の寡黙で頑固な板長に叩き込まれた包丁捌きは、宴会のお造りを任されるほどになっていた。
ただ、雇われ店長から接客の方が向いているなどと煽てられ、頼み込まれて断りきれなかったのだ。
最近、マナーの悪いサラリーマン客が増えてきて、女子学生は残らず辞めて行き、ホールスタッフが足りていないのは明らかだったし、ホールに学生バイトしかいないような居酒屋で、ひときわ体格の良い自分に楯突く客がいなかったのもある。
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