太陽に焦がれ、太陽を盗んだ男「あーあ、俺もうダメみたいだ」
既にモノクロになった空を見ながら、俺は赤に濡れた液体と共に口から溢した。
油断はしてないつもりだったんだけどなぁ。
所詮「つもり」なだけでできてなければ意味がないのだ。それは自分が良く知っている。
そして、俺はもう長くないのだということもわかっている。
「ミラちゃん……ごめんね。あとは……」
彼女の髪に触れて、そして
この手はミラの頬に触れることなく、するりと滑り落ちる。
最後まで、ミラちゃんを悲しませて、怒らせてしまった。ごめんね、ミラちゃん。
でも俺、幸せだった。
君に愛されて、愛して……
君との生活はとても幸せに溢れてた。
だからもう思い残すことはないんだ。
あとは君の選択に委ねるよ、ミラちゃん。
そして、英雄であるスコル・ガーファンクルは瞳を閉じ、呼吸を止めた。
英雄 スコル・ガーファンクル ここに眠る
−−−−−ここはスコルの記憶のバックアップがある部屋。スコルが眠る部屋。
そこにミラク、彼女が来るだろう。
それを見越して自動的にモニターに光が灯る。そしてその画面越しにカメラを覗き込んで調節しているのであろうスコルが映る。
『あー、あー……テスト、テスト……』
『うん、これでいいかな』
『ミラちゃんがここに来て、この映像が流れてるってことは、俺はきっと死んじゃったのかな……ごめんね、ミラちゃんを置いて1人にしちゃって』
『なんでこの映像をミラちゃんに見せてるのかというと……実はね、俺をアンドロイドとして甦らせる前にミラちゃんには二つの中から一つだけ、選択してほしいことがあって。それはね……』
『一つ、記憶を見ないで俺を甦らせる』
『二つ、記憶を見て俺を甦らせない』
『……ふふ、きっと俺の記憶を見たら、俺の考えまで読めちゃうから、きっとミラちゃんは怒るんじゃないかなって思ったから』
『どちらにするか決まったら、あとはミラちゃんに任せるよ』
『それじゃ、またね』
そう言って画面に写っていたスコルは闇に消える。
あなたはスコルの記憶を見ますか?
はい
いいえ
▶︎はい
あなたはスコルの記憶を見る。
彼の幼少期から現在に至るまで。
その記憶は全て完璧にバックアップされているようで、鮮明に目の前にあるその画面に映し出されていた。
彼がとあるフォートレスの上に立つ者であったこと。
『これから、僕は沢山の人を導いていく為に頑張るぞ』
両親がそのフォートレスの仲間に裏切られて、両親は殺されてしまったこと。
『なんで?!お父様、お母様!……憎い!!お父様達を裏切ったあいつらが憎い!!必ず、僕はお父様とお母様の怨みを晴らしてみせる!』
その後、彼は見つからないように隠れながら涙を堪え必死に走って逃げたこと。
『つらい、きつい……だけどそれ以上にあいつらが憎い!それがあれば、きっと僕はまだ生きていける……!』
逃げて、もう足も動かず疲れて倒れていたところをミラク、貴方に助けられた時のこと。
『僕のことを救ってくれた、この人は僕に優しくしてくれる……さっきまで人を信じられなかったのに不思議だ……』
『僕はあなたのことを追いかけて、きっと追いついてみせます!』
そして、師匠に拾われた時のこと。
『……⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️』
『ミラ……』
身体を改造されてしまった時のこと。
『……』
やっとミラク、あなたに会えた時のこと。
『ミラ、ミラク!俺だよ!あの時助けてもらったスコルだよ!戦うのはもう止めよう?!俺が師匠を止めるから、だから……!』
ミラクを失い、師匠、仲間を殺して英雄になった時のこと。
『どうして、俺の掌からは大事な物が沢山溢れていくんだろう?どうして、皆俺を置いて行っちゃうの?俺もう、嫌だよ……』
ミラクの大切なお父様を殺してしまった時のこと。
『ミラ、待っていて……俺が君を蘇らせるから、だから待っていて。アリアも君のこと待ってるんだよ』
英雄になった時のこと。
『俺は英雄なんかじゃない、本当は汚くて、悪くて、一人の人の為にしか生きられない男なんだ……それでも英雄だと言うのなら、俺はそれを背負っていくよ』
ミラクが目を覚ました時のこと。
『よかった、本当によかった!ミラ!好き、好きだよ……これからはずっと一緒だ。もう君を失うようなことはしないし、ずっと守ってあげるから!だから俺のミラちゃんになって?』
偽のお兄様との戦闘の時のこと。
『お兄さんであれ、なんであれ、俺はもうミラちゃんを離さないって決めたんだ。だから、君に恨まれようと俺は君を離さない。俺のこと嫌いでもいいからさ、ずっと一緒にいてよ……』
ミラクの兄弟の仇のために「かがやき」に敵討ちした時のこと。
『せっかくなら全部壊れればよかったのに……でも、これでミラちゃんのお父さんや兄弟達の心が少しでも晴れたのならいいな……このことはミラちゃんには、内緒ね』
ミラクにお父様と何があったのか、アリアの記憶を見せて真実を明かした時のこと。
『真実を知ったことで、ミラちゃんが俺のことを少しずつだけど受け入れてくれてる気がする。嬉しい。本当は言わないつもりだったんだよ、でも知って前に進んでいく君を見たら、俺も嬉しくて、教えてよかったんだね……よかった』
ミラク、あなたと2人教会で将来を誓い合った時のこと。
『ずっと、ずっと一緒だよ。ミラちゃん。俺、すっごく幸せだ、君と歩いていける道ならきっと獣道だろうがなんだろうが楽しいんだろうな』
『愛してるよ、ミラ』
沢山のスコルの記憶の数々。
スコルの言葉がミラクに押し寄せてくる。
『大好きだよ、ミラちゃん』
『例えミラちゃんに嫌われても、俺は大好きだもん』
『ミラちゃん、ご飯何が食べたい?俺、ミラちゃんの好きなもの食べたい!』
『ミラちゃん……愛してる』
『ぎゅってしてもし足りないくらいミラちゃんのことが大好き!』
『可愛い〜!ミラちゃんの怒った顔も好き!』
数々の言葉を聞いて、その膨大な愛のメッセージにクラクラとしそうになる頭。しかしその後、やけに鮮明にスコルの声が聞こえた。
『これでやっと、ミラちゃんに太陽を返してあげられるね』
『これでミラちゃんは自由だよ』
そこで、スコルがフッと笑った気がした。
『じゃあ、またね』
ここでスコルの記憶の再生は終了した。
この記憶のバックアップを使ってスコルを蘇らせますか?
それとも、消去しますか?
甦らせる
消去する
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承知しました。
それでは【 】を実行いたします。