桃百合の余香父が死んだ。
病院から連絡が来て、初めて彼が病気だったことを知った。
父は昔から優しい人だった。母が出ていった後も、俺が寂しくないようにといつもフィールドワークに連れていってくれた。
ひとり留守番をさせることが避けられない日は、必ず土産を持って帰る。そんな人だった。
病気のことを黙っていたのも、心配をかけまいと思ってのことだろう。
連絡は定期的にとっていたのに、何ひとつこぼしてくれなかった。
つい先日も、久しぶりに一緒に食事でもしようというメッセージが送られてーーー、
「……あ」
薄暗い職場の廊下で、己の鈍さを呪った。
◇◇◇
通夜には生前父と交流のあった人だけを呼び、ひっそりと行うことになった。
両手で数えられる程度しか連絡が取れなかったが、声をかけた全員が参列してくれた。
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