ココイヌ/東リ 本物の暗闇は原始的な恐怖を催させ、土からは湿ったにおいがした。
山奥の空気は薄いようで重く、九井は何度も目眩を感じて息を深く吸った。車のライトですら、夜に吸い込まれてそう遠くまでは照らせない。視界はひどく狭かった。何度も背後に得体の知れない影がよぎるような錯覚を覚え、背筋が冷える。
静かだった。金属が土を掘り返す音と、お互いの息遣いだけが聞こえる。陰気な空気に飲まれないよう、努めて明るく九井は声を出した。
「オレたちのやる仕事か? これ」
「いいから手を動かせよ」
そのぼやきを、乾は冷たく切り捨てた。土にシャベルを突き立てる。掻き出した土を外に出す。ただそれだけを、小一時間ほど繰り返している。
「悪いなイヌピー。こんなこと手伝わせて」
1902