ふぞろいの真珠たち「一孝! なーなー、見てこれ!」
敬がスマートフォンの画面を見せてくる。そこには、まん丸ではなく少し長細い真珠をつないだネックレスの写真が映っていた。
「どう見ても、歯だろー」
「確かに、歯に見えなくはねえか……」
「こないだ指揮官さん、ネックレスが必要だって言ってたからさ……。オレ、歯集めて作ろうと思う!」
「いや、歯で作るなよ!」
斜向かいに座っている北村が話に入ってくる。
「伊勢崎サンならお高い奴買えるんじゃないの〜?」
「こういうのは自分で作るのが大事なんだって!」
「だからって歯はねえだろ。第一歯なんてどうやって集める気だ?」
「えー、まず、ケンカするだろ、そんで相手の歯が飛んだら、拾って集めて……。穴開けて、紐でつないで、ネックレスにする……! 勇成のケンカにもついてくぜ!」
「めんどくせー」
机の下から矢後の声がした。
馬鹿げた「ネックレスの作り方」を大人しく聞き終わり、北村がささやく。
「……知らない人の歯なんかもらって喜ぶと思う?」
「どういうこと?」
目を丸くした敬が北村の方を向いた。内心、俺も北村が何を言うのか少し気になっている。
「ボクらの歯じゃなくていいのかってことさ! もっともボクごときの歯はお呼びじゃないかもしれないけどね。認可様の歯は喜ばれると思うぜ!」
「たしかに……知らない奴の歯よりオレたちの歯の方がいっか!」
「何言ってんだよ、良くねえだろ。指揮官だって喜ばねえわ! むしろ引くだろ。歯は食うときにも大事なんだ、大事にしろよ」
「大事なものを分け与えてくれることに感動するかもよ!」
「バカか! 第一汚ねえだろそんなもん!!」
「……よく洗ったら汚くないと思う」
少し離れたところに座っている霧谷がぽそりと呟く。敬は思わぬ援護射撃に驚き、ニヤついていた。
「だよな〜!?」
「いや……それはねえだろ。北村はともかく、霧谷まで何で肯定してんだよ。明らかにおかしいだろうが……」
あることに、はたと気がつく。一孝は顔面蒼白のまま頭を抱えた。
「しまった、俺以外全員バカじゃねえか……!」
武居一孝は、汗だくで目を覚ました。
合宿施設の自室の天井は、いつも通りの色をしている。頭をひと掻きし、ひとりごちた。
「……夢かよ。別にイーターの影響があるとかでもないはずなのに夢見が悪すぎんだろ……」
歯の夢は転機を表すことが多いが、歯が抜ける夢でもなければ歯磨きをする夢でもない。何を表しているのか皆目見当がつかなかった。
俺以外全員バカであることの方に何かあるのか?
朝食を食べるために食堂へ向かうと、見慣れた金色の頭が見える。
周りの座席には、北村と霧谷がバラバラに座っている。この位置からは見えないが、きっと矢後が机の下で寝ているだろう。
夢と同じ光景だ。
敬がスマートフォンを掲げて振り返る。
「一孝、なーなー、見てこれ!」
思わず目を逸らした。
「いや、絶対見ねえ」
「何でだよー!」
敬のスマートフォンが頬にぐいぐい当てられるが、俺は、絶対に見ない。
おわり