OBQ After Record「──…って時代もまぁ昔はあったわね。アタシ? 嫌ァね、英雄なんかじゃないわ… 手にしたもの以上に、色々失い過ぎたもの。」
ザナラーンの砂塵が俄に舞う、埃っぽい店内。
行きずり冒険者達で賑わう騒々しさを他所に、この店の主はカウンターに頬杖を付き、懐かしそうに宙を見詰めた。
どういう経緯か、店主の嘘か誠か分別の出来ない身の上話しに首を突っ込んでしまった。
かつてこの地に「光の戦士」と呼ばれる英雄が世を凪いだと云う逸話はもはや万人の知る所ではあるが、
まさか目の前で(やや堕落気味に)グラスの酒を舐めているこの男がそうだとは、俄には信じられない。
「…な~んて。喋り過ぎたわね。」
艶やかな唇からフッと吐き出された紫煙には、自嘲も含まれているのだろう。
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