fly flower~花言葉は嘘と罪と愛~その男たちは突然やってきた。とある晴れた平日のお昼休み、学食の日替わりランチを食べ終わり、日課の株価をスマホでチェックしていると、正面の席に座る人影を感じ顔を上げると
「こちらの席に座らせて頂いても?」
長身の2人の男が立っていた。それも双子だ。
「どうぞ」
アズールが許可を出すと礼を述べながら2人は座り
「初めまして、アズール・アーシェングロットさん。いや海の魔女さんとお呼びした方が良いですか?」
と声を掛けてきた。
アズールは一瞬虚をつかれたが、直ぐにニコリと微笑み
「その名前を知っていると言う事は、僕にお悩み相談があると言う事ですね?」
「そうです。是非貴方の慈悲で僕達を救って頂けませんか?」
男は請うてきた。アズールはゆっくりと瞬きをし
「分かりました。ですがアポなしの突撃お悩み相談は受け付けておりません。この後も予約が入っています。申し訳ないのですが、日を改めて貰っても?」
アズールは答えると
「……分かりました。その予約はいつ取れますか?」
「そうですね。」
アズールはスマホをするすると操作し、スケジュールアプリを確認した。
「丁度1週間後の昼休みは空いています。」
アズールがそう言うと
「えぇ〜、そんなに日が開いちゃうのぉ?」
と、別の男が口を挟んだ。すると先程までアズールと会話していた男が
「仕方ありませんね。分かりました。それでは打ち合わせも兼ねて連絡先をお伺いしても?」
「えぇ良いですよ。そう言えばお名前も伺っていませんでしたね。学籍番号も含めて自己紹介して頂けませんか?」
「なんで学籍番号? そんなもんねぇよ。大学関係者じゃないとダメ?」
こてんと可愛く頭を横にしながら、もう1人の男が言った。
「と、言うことは貴方達は大学生とは違うという事ですね。おかしいな。僕はこの大学でしかお悩み相談をしていない。そしてお悩み相談後も箝口令を敷いている。何処から僕を知ったんです?」
アズールは少し警戒した。
「話が長くなっても良いのならお話しますが、予約の方がお待ちになっているのでは?」
男に促されアズールはスマホで時間を確認すると予約の時間の10分前だった。
「今日は時間がありません。またの機会にします。それでは、失礼」
アズールは双子をしっかりと確認し、完食した日替わりランチのトレイを持って席を立った。
この後のお悩み相談も授業も滞りなく進み、帰宅しようかと言うところでSNSアプリが鳴った。確認すると昼休みに会った双子からだった。
軽い自己紹介とアズールを知った経緯、そして悩みと報酬の相談が書いてあった。
「ふむ。一通り調べみましたが、犯罪者等の疑いもないし、特に2人の面白い記事も出てこない。普通に金持ちの息子達、と言ったところでしょうか? 1週間後が楽しみです」
アズールは独り言つ。双子を見た第一印象は似てるようで似ていない、金を持っていそうな男達だった。これは良い太客にしなければ、と思ったが相手は相当困っているのか、条件も報酬も羽振りが良く、正直この1回で終わらせるには勿体ない相手だった。
そんな男達とお悩み相談の当日になり会うことになったのだが、大学関係者ではないので大学の外で会いたいとの申し出に了承すると、大学の正門に車が1台停止していた。
アズールの姿を確認すると、リアドアが開き長身の男が出てきた。
「お待ちしておりました。どうぞ中に」
男は丁寧な所作でアズールをエスコートする。
「ありがとうございます」
お礼を述べ、車の中に入る。男も入ってドアを閉めた。すると運転者は心得たようにゆっくりと発進した。何から話そうかとアズールが考えていると
「今から5分くらい車を走らせた場所にあるカフェに入ります。そちらでランチをしながらお話をさせて頂けませんか?」
横に座っていた男が話しかけてきた。
「ジェイド・リーチさんですね。分かりました。場所は貴方方にお任せします」
顔を見ながら喋ると
「まさか顔と名前を覚えて下さるとは思ってもみませんでした。とても嬉しいです。僕達を見分けられるのですか?」
嬉しそうにジェイドが言うと、
「え、じゃあ俺も顔と名前を覚えて貰ってるってこと?
運転しながらアズールに話しかけてきた。
「えぇ勿論です、フロイド・リーチさん」
アズールはルームミラー越しに視線を送った。
「あはっ、嬉し♡ 俺達良く似てるらしくて、見分けてくれる奴なかなか居ないんだよねぇ」
フロイドは文句を言いながら運転をする。とある建物が見えてくると駐車場にスムーズに車庫入れした。車から出ると双子もそれぞれ出てきた。ぞろぞろと並んで建物に入ると、ジェイドは店員に話をつけ、席へと案内させていた。カフェは個室になっており、ゆっくりと話が出来そうだ。注文をひと通り済まし、たわいも無い話をしていると食事が給仕される。しっかりと食後のコーヒーまで頂いたところで、アズールは口火を切る。
「では早速お悩み相談を致しましょう。粗方相談内容は伺っています。貴方方の願いは、最近立ち上げた花屋を軌道に乗せたいとの事で宜しいですね?」
「そうです。そして条件は、僕達の名前も顔も一切出さない事」
ジェイドが話を続け、1時間たっぷりと話し合った末、
「分かりました。その願い僕が叶えて差し上げます」
十分すぎる対価を得られると踏んで、アズールは契約書にサインをした。
慌ただしく日々は過ぎ去りリーチ兄弟の花屋を手伝って3ヶ月が過ぎた頃、店長代理の男といつものように店番していると柄の悪い男達が入ってきた。
「リーチ兄弟がイロを囲うのに使ってる店ってここだよなぁ?」
男達はニヤニヤと笑いながら値踏みするようにアズール達を見た。
「あ? 男しか居ねぇじゃねーかよ。どう言う事だ?」
男達が険しい顔になる。
「でも兄貴、コイツ男にしては上玉そうです」
下っ端らしい男がアズールを指さした。
兄貴と呼ばれた男は、アズールを見て
「なるほど。連れていけ」
と一言言うと、店を出る。下っ端らしい男達に囲まれたアズールは
「何か勘違いをされています。僕はただ雇われているだけです」
そう言って伸びてきた手を振り払う。
「あ? お前は黙ってついてこれば良いだよ!」
手を振り払われた男は、いきなりアズールの左頬を殴った。咄嗟の事で間に合わず口内を切ってしまい口の端から血がツー、っと滴った。
「店長代理、警察に連絡を」
横で顔面蒼白になっている男に指示を出す。怯えて全く動けないようで、アズールは舌打ちして何とか自分で動けないか算段した。兄貴分の男は店から出たので、残りは店に居る下っ端4人。既に囲まれていて、身動きはとれない。どうしたものかと考えていると、外で壁にぶつかるドォンと言う音が聞こえた。何事かと皆一斉に外を見ようとドアを開けると、入れ替わるようにボロボロの男が投げ入れられた。よく見ると先程の兄貴と呼ばれていた男だった。
「兄貴!」
舎弟達は駆け寄る。するとドアから長身の男2人が殺気を醸し出しながらゆらりと入ってきた。その形相に下っ端達は慄き蜘蛛の子を散らすよう店を出て行った。数秒後には喧騒が聞こえてくる。どうやら複数人で闘争しているようだ。
あぁ、どうやら下っ端達は捕まえられたんだな、とアズールは思ったが自分も同じようなものでは無いかと双子を見て思う。
「僕はいつから罠にかけられていたんですか?」
アズールが双子に問うと、獰猛な顔をしたまま2人はニヤリと笑った。