(治角名)それはきっとどうしようもないことで「角名!」
侑の声にたんと床を蹴り、右手を大きく振りかぶる。
目の端には向かいのコートで動く壁、そしていくつもの床を蹴る足。
その刹那、身体が自然に動き、ふわりとレフトにボールをあげていた。
ハッハという侑の声につられるように、自然と笑みがこぼれる。
ゆるく弧を描いたボールが、スパイカーのしなる手で鋭い矢となって相手のコートの床に刺さった。
背後から体当たりしてくるいくつもの熱、大きな手が俺の髪を撫で背を叩く。
最後に侑と拳をあわせて、ああそうかとすとんとなにかが腑に落ちて、笑いながら涙がひとつ床を濡らした。
俺はずっと寂しかったんだ。
お前がコートにいないことが
ずっと気づかないふりをしていたけれど。
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