愛し君へ 「ビリーお前、マスターのこと好きだろ」
そう藪から棒に、友人に問われる。
正直、面食らった。
僕はちゃんと隠せている、と言う自負があったから。
「どうしてそう思うのさ」
眉根ひとつ動かすことなく、率直な気持ちを、そのまま問うてみる。
隠せていなかったにしても、一体どこで自分の気持ちが露呈するようなヘマをしたのか、正直見当もつかない。
「いつも目で追ってる」
「それ、カマかけのつもりかい?」
ロビンが、こういう時にカマかけをするような奴ではないことは、十分に分かっているつもりだ。
それを分かっていて、敢えてこう返したのは、僕なりのせめてもの最後の足掻きだったのかもしれない。
「これはカマかけじゃない、分かってんだろ?」
なんて察しが悪いんだ、とでも言わんばかりの顔をしている。
「お前がマスターの事が好きで、それはダメだとか、そういう下らない事を俺は言いたい訳じゃない」
「じゃあ、どういうつもりなのさ?」
この問いは、彼の最初の問いかけに対して、安易に肯定している事にもなるが、今はロビンの真意の方が気になる。
「あんまりうだうだしてっと、誰かに取られても知らねーぞ」
その一言を聞いた瞬間、今まで感じたことの無い、焦りに襲われるような心地がした。
わざわざ僕にそう言うという事は、その<誰か>とは明確な<誰か>を指しているのか?もしかして、目の前の友人がその<誰か>なのか?
表情には出ていないとは思うが、情けなくなるほど、その一言に動揺する自分が居た。
「それって、誰かがマスターに好意を寄せてるって事なの?」
「いや、それは知らん」
不安の言葉に対し、即座にそう返される。
声色や表情から察するに、彼自身が当事者な訳でも無さそうだ。一先ず気持ちを落ち着かせる。
「が、他の奴が気付いてるかは知らんが、俺の目から見たら、お前はどうもマスターを気に掛け過ぎだ」
一サーヴァントとして、じゃなくな、と付け足される。
「俺が気付いてるんだ、他の奴が気付いてても不思議じゃない。そうなるとマスターを意識し始めるやつも出てくるだろうし、元々好意を抱いてる奴が居るなら、具体的に動き出さないとも限らない。その可能性が頭にあるのかどうかを確認…と言うか忠告しておこうと思ってな。一友人としてのお節介とでも思ってくれ」
そう言うと、「まぁ、どうするのかはお前次第だ」と最後に一言だけ残して、立ち去ってしまった。
残された僕は一人考える。
僕は、あくまでもサーヴァントだ。マスターを護る事が最優先で、いざとなったらマスターの盾となり、捨て駒にならなければいけないもの、と言っても良い。
そんな僕が、マスターと特別な仲になるなんて、酷く無責任だと思う。…アウトローが責任だなんだと考えるのは、自分でも滑稽だと思うが。
だからこそ、ずっと隠しておくつもりだったんだ。
でも、それは存外呆気なく、マスター本人以外にバレてしまっていた。
僕は、自分で思っていたより、隠すのが得意ではないらしい。
ロビンの言葉が反芻する。そして、自分自身に、今一度問いを投げかけてみる。
万が一、僕以外の他の誰かと、マスターが結ばれた時、心から祝福出来るのだろうか。そうなった時、僕は後悔しないのだろうか。本当に、このまま隠しておいていいのだろうか。
そこまで考えて、自ずと自分の心は道を決めた。
思いの丈を伝えよう、例え振られたとしても、それはそれで構わない。
せっかく、ある意味二度目の人生を歩んでるんだ、どうせ何も残らないのなら、後悔はしたくない。
何より勝ち目のない勝負にも、僕は生前から勝ってきたし、負けるなら、それはそれでいっそ面白いじゃないか。
「恋って、こんな感情だったかなぁ」
ふと漏れた一言は、僕だけが居る空間に響き、僕だけの耳に届き、改めて自分の感情を自覚させるように、僕の脳裏に響いた。