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     手が届くと気づいてしまったのはあの日だった。
     重ねた手をシーツに縫い付ける。だけでは飽き足らず、ふたりの重ねた手に楔が打たれることすら妄想していた。
     お前をこの地に繋ぎとめたいと。
     湿った髪に顔を埋める。陽の匂いがする。脱力した体を背後から抱え込む。ひくりと少しだけ動く。反射だったのかもしれないが。
     寝ているかと思ったが、目は開いていた。凪いだ湖面のようだった。
    「おれさ、最近やっと気づいたんだけど」
     ぽつぽつと、言葉を紡ぐ。
    「ダイはさ、おれが諦めてたからおれを落としたんだ」
    「あのときおれは、ダイと一緒に死んじまう覚悟を決めてたからさ」
     吐息が震えた。いつの間にか力が入っていた腕の中で、薄い腹が身じろぎした。
    「そんなんじゃ、そりゃ、だめなんだ。そんな覚悟なんかさ、決めちゃいけなかった」
     希望が見えなくなった自分に、ダイはまだ希望を見出していたのだと。
     死にに行くのは違うと。生きて、ほしいと。
     震える息を吸い込む音がする。
    「おれはちょっと、自分の命の事、簡単に考えすぎてたんだな」
    「それをさ、友達一人失って気付くんだからさ、やっぱバカなんだよなおれ」
     今度こそ強く掻き抱く。苦笑する音が伝わってきた。
    「だからさ、おれは、おれを認めなきゃな。一人じゃさ、難しかったかも、しれねえけど」
    「おまえも……居てくれるし」
     だから、大丈夫。
     抱き締めた手に掌を重ねてくる。温かかった。これが、命だ。ここにある、命が。オレの腕の中に。そうすることを、選んでくれたのならば。
     これは傲慢な考えだったが、
     例えばオレが、もっと早くにお前を繋ぎとめていれば、運命は違っていたのだろうか。



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